7.咬合調整で天然歯を削ることを許してはならない

咬合調整に対する医師の知識はどのようなものか

虫歯等による保存、ブリッジ等による補綴等の治療を受けると必ず咬合調整が行われます。
咬合調整は、赤や青の咬合紙で歯を削る部位を特定して削る手法ですが、印が付いた箇所は健全な歯であっても、医師は容赦なく削っていきます。
この行為に患者は不安を感じながらも、医師のなすがままに従っています。いえ問答無用といわんばかりに強引に医師が行っていると言った方が正しいでしょう。

これが顎関節症の温床になっていることを、医師は全く認識していません。

顎関節症患者が多発し、難民になっていく現状は、一つには歯科医師の咬合調整に対する知識に原因があります。
医師の知識の何が誤っているか検証してみましょう。

1.咬合調整の仕方について

咬合紙によるマーキング
  1. 上下歯の間に挟まれた赤の咬合紙をカチカチと数回噛むと、当然上下の歯が強く当たっているところに色が付きます。
    A図はすでに相当削られており、咬合面が健全歯当時の形状を全く失っていることや形状から不安定な噛み合わせ状態にあることが推測できます。
    マーキングされたところを削ると、次にカチカチと噛んだときには別の箇所が強くマーキングされ、安定した噛み合わせ状態は決して確保されません。なぜだと思いますか。

    最初にマーキングされたところをどれ位削れば、全体の上下歯が同時に均衡状態になるかについて全くわからないままに削っているからです。
    それともう一つは、すべてのマーキングが同時のものか、あるいは1ケ所が早期接触した後、他の部分は咬合面滑走しながらマーキングされたものかについても、医師は判断せずに削っています。
    削る量の把握や同時に均衡する状態の噛み合わせがわからないままにマーキングされたところを削っているのですから、終わりなき咬合調整が続くのは明らかです。

  2. 青の咬合紙で、どのようなチェックをしていると思いますか。
    上下歯を合わせて前後左右に咬合面を滑走運動させて、マーキングの状態をみます。
    日常生活において、上下歯をこすり合わせて前後左右に滑走運動をすることはありませんし、その必要もありません。

    全てが健全歯で歯科治療を一度も受けたことのない人の咬合面は、入れ歯のように水平でなくても噛み合わせに支障を来たすことはありませんし、体調不良も起こりません。
    でもこのような人が滑走運動のチェックを受けると、おそらく接触異常箇所があると診断されるのではないかと思います。
    このようにして青色咬合紙による診査によって削られると、赤の咬合紙で再びチェックした時には、青の咬合紙を使用する以前とは異なる位置にマーキングされるのは当然と思います。

  3. 日本歯科大学助教授 小林義典医師(肩書きは文献当時、書籍名は日本歯科評論昭和52年5月号)は、「咬合調整の順序と術式」で次のように述べています。

咬頭嵌合位(習慣性咬合位)が比較的安定しており下顎運動時に咬合干渉がある場合の調整の順序は、@咬頭嵌合位、A中心位、B前方位、C側方位(平衡側、作業側)、E咬頭嵌合位、の順に行う。

次の図はその術式の一部ですが、この検証だけでも参考になると思います。

咬頭嵌合位における削除部位

B図咬頭嵌合位における削除部位の説明は、次のとおりです。

「前歯の早期接触は下顎唇側切縁(1)、臼歯では頬側早期接触の場合は下顎頬側咬頭(2)、舌側の場合は上顎舌側咬頭(3)(4)を削除する。」

C図側方位における平衡側の調整の説明は、次のとおりです。

「干渉する上顎舌側咬頭(2)、あるいは下顎頬側咬頭(3)を削除する。」

私がこの図を見て疑問に思ったのは、咬頭嵌合位で臼歯部の上下の歯が対向する歯の窪みに咬み合うようにすることが良いといえるのかどうか。健全歯のときの噛み合わせはこのような状態ではなかったはずです。

滑走運動時に接触する箇所を削ると、最初の咬頭嵌合位で行った調整に変化が生じるのは明らかで、最後に再び咬頭嵌合位の調整を行うのもそのためでしょう。これでは堂堂巡りしているようなもので、多くの患者はA図のような歯にされ取り返しのつかない状態にされて、ブリッジ等の人工歯の治療に至らされているのではないかと思います。

なぜこのような咬合調整が、歯科医療界で誰一人疑問を感じることなく漫然と行っているのでしょうか。

2.「咬頭嵌合位」とは

以下、上段の『 から、下段の 』までは、クインテッセンス出版株式会社提供「歯科のコミュニケーションサイト」よりの引用ですが、三つのブロックに分けて検討してみましょう。

上段

『上下顎歯列がもっとも多くの部位で接触し、安定した状態にあるときの顎位。顆頭位とはかかわりなく対合歯が完全に嵌合した状態。

中段

同義語に、最大歯牙接触位、習慣性咬合位がある。顎関節や咀嚼筋に関係なく、歯の形態的な面から規定される咬合位であり、つぎのような機能的意義がある。
(1)咀嚼終末位として
(2)習慣性開閉口運動の終末位として
(3)生理的な咬みしめ位として

下段

顎口腔系を含む健常有歯顎者では、咬頭嵌合位は咀嚼終末位と習慣性開閉口運動の終末位(筋肉位)と同一で、このとき下顎頭は顆頭安定位に位置している。』


「顆頭」とは、「下顎頭」のことです。すでに顎口腔器官の構造や下顎の運動経路を知った皆さんは、正常な状態とは、下顎頭が関節隆起の後壁に位置しているときに(顆頭安定位)、上下歯の噛み合わせが安定し、周辺の筋肉も安定している、この三つが揃っていなければいけないということは理解されていると思います。

上記引用文を各段ごとに区切って考えてみましょう。

上段、中段は、顎口腔全体の構造やメカニズムを無視した理論です。
テレビに映る多くの人々がこのような状態になっています。上下歯はきれいに噛み合っていますが、顔の筋肉等には異常が生じており、開口したときの口元の歪みは、顎関節が不安定な状態にあることを示唆しています。
このような状態でも咀嚼できると思いますが、口が十分開けられない、顔に痛みが生じる等の異常を感じている人は多いと思います。
歯科医師たちは、この噛み合わせを正常と信じて疑わないのですから、患者との間でトラブルが起こるのは当然といえます。

下段は健常者の状態を言っていますが、このようなことがわかっていながら歯科医師はなぜ咬合紙によるマーキングのみを見ていたずらに歯を削るだけで、顎口腔全体の変化を見ようとしないのはなぜでしょう。
一般常識からしても理解に苦しむ医師の知識です。
このような歯科医師の姿勢を社会は許してはいけません。

3.私が試みた咬合調整の方法

医師が行う咬合調整に疑問を持った私は、スプリント治療を受けていた時に実験をしました。

柔らかい入れ歯安定剤を人工化学物質を揉みだすように、ぬるま湯をかけながら指でしごいて耳たぶほどの硬さにし、スプリントの咬合面に付着させてから装着し、ゆっくりと上下歯を近づけ、どこか1ケ所だけ早期接触したらスプリントを外して、早期接触した箇所を入れ歯安定剤の上からスプリントに印が付くように鉛筆で印をつけました。
印を付けた後、入れ歯安定剤を付けたままの状態のスプリントを再び装着し、上下歯が止まる状態のところまで噛みました。
再び外して、咬合面が鉛筆で印した箇所からどれだけ滑走しているかを見ました。
この滑走の繰り返しが歯や歯肉を痛め、顎関節や周辺の筋肉を複雑に変化させます。

その後弊害のあるスプリント治療を中止してから、私は更なる実験を試みました。
鉛筆で印を付けては、その箇所を微粒子が飛び散る程度のわずかな量を削ることを繰り返しました。
そのたびに噛み締めたときの咬合面滑走は減少し、噛み合わせは安定していきました。

これはスプリントや入れ歯を使用した場合に、咬合面滑走の有無を確認する方法ですが、下顎頭を正常な位置に戻したり、周辺の筋肉異常をこれによって改善することはできません。
その理由は、目次「8.歯科治療の基本三要素」の「咬合高径」を読んでいただくと理解できると思います。

4.咬合調整の検査を受けるときの患者の姿勢について

皆さん、横になった状態と体を起こした状態とで咀嚼してみて下さい。
周辺の筋肉や咬合接触状態が異なることに気づいたと思います。特に横になったときは、下顎が後方に寄ると思いませんか。

顎口腔全体が健全な人は、横になったとき上下歯は噛み締めている状態ではなく、むしろ歯間空隙になっていると思います。

テレビに映る多くの人々の中で歯科治療を受けたと思われる人の顔が、鼻から下顎にかけて後頭部寄りに押し付けられたように斜めになり、頬が硬く隆起し、話すときも唇だけが動いて下顎があまり動かない人が増加しています。
そして、下顎が後方に偏位したためと思いますが、上前歯を急角度に後方に向けて補綴されている人も増えています。
このような現象が生じる所以は、横になった状態で咬合調整、すなわち上下歯の咬合接触を形成したからです。

食事をするとき、体は起こして咀嚼をします。病人でも重篤でない限り食事のときはベットを上げて体を起こします。

患者を横にして咬合調整を行うと、咀嚼時の噛み合わせは不適切な状態になります。歯科医療で多くの人々が顎関節症を発症するのは当然といえます。

5.咬合調整により体調不良を訴える患者を、医師はどうみているか

平成21年6月10日、NHKのゆうどきネットで、九州大学大学院古谷野潔教授が次のような発言をしていました。

「顎関節症の治療に最初から噛み合わせを変えてしまう治療をすると、新たな噛み合わせの違和感が出たり、精神的なストレスが加わって問題が複雑化して治療が長引くことがある。昔は、噛み合わせを細かく見てそこをたたかなければならないという考えで治療を行ってきたが、そうすると永久に噛み合わせを変えてしまうことになるので今は避けるという方向にある。」

皆さんはこの発言を聞いてどう思いますか。
まず最大の問題点は、歯と顎口腔全体ひいては全身への影響についての考えが無であることに気づきます。
一度でもまたわずかであっても天然歯が削られると、顎口腔全体の調和が崩れて噛み合わせが不安定になり、痛みや思考力の衰え、頭の朦朧状態、倦怠感等様々な不定愁訴が生じるのは当然です。
体調不良が歯科医療過誤によって生じた現象であるにもかかわらず、精神的ストレスや噛み合わせの変化に対して順応性がないなどとして医師は患者側に問題があるとしていますが、これらは論理なき医師の身勝手な言いがかりといえます。

6.文献を通して医師の顎関節症患者に対する態度を知ることも重要です

日本歯科評論昭和51年12月号〜昭和52年6月号別刷で、日本歯科大学助教授 小林義典医師(肩書きは文献当時)は、加療した患者55名の中から10名の症例を示し、1例を精神科へ転医、7例が完治、2例が加療中とありました。
個々の症例が記載されていましたが、多数が開口障害、関節雑音、周辺の痛み、広範囲の筋肉痛等でした。ところが個別の治療法や完治と診断した根拠は一切示されていませんでした。
医師と患者の間には大きな隔たりがある場合もあり、患者側の言い分も重要です。また、治療法や何をもって完治と判断しているかについては、一般患者にとっても重要な情報です。

症例中、次の2例に対する医師の対応は、現在多数の患者がこのような扱いを受け、顎関節症難民になって苦しんでいるのではないかと思います。

「例1」
主訴は顎関節部の疼痛と咀嚼不全で歯科医を転々し、この症状は歯科医の責任だと一方的に主張、術者の説明を全く聞かず、指示に対しては必ず逆のことをした。触診で顎関節部の圧痛を認めた。精神科に転医した。

「例2」
両側臼歯部の補綴治療して以来歯ぎしりを自覚し、夫からも指摘されている。両側咬筋部や側頭筋前腹部の疲労感、肩や耳の痛み等で、触診で左側胸鎖乳突筋停止部、僧帽筋、下顎隅角部の圧痛を認めた。完治した。

社会は全般的に一般の者からの異論、反論に対して、専門家の「関係ない」、「問題ない」の一言や、あるいは論理なき説明を是認し、多くの場合それが許容されています。
医療においても例外ではなく、ストレスや生活習慣、加齢、精神疾患などとして片付けられ、医薬品による症状軽減で済まされる場合が少なくありません。
このようなことは憂うべき事態で、この結果が多数の被害者を生じさせ、さらに被害を重くしています。