内閣総理大臣に衆議院解散権はありません

衆議院議員が任期終了する時についての通説

  1. 任期満了
  2. 憲法第45条
    衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。


  3. 憲法第69条解散
  4. 憲法第69条
    内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。


  5. 憲法第7条第3号解散
  6. 憲法第7条
    天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
    一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
    二 国会を召集すること。
    衆議院を解散すること。
    四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
    五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
    六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
    七 栄典を授与すること。
    八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
    九 外国の大使及び公使を接受すること。
    十 儀式を行ふこと。


内閣総理大臣の職務等

憲法第72条 内閣総理大臣の職務
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。


憲法第68条 国務大臣の任免
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。


憲法第74条 法律・政令の署名・連署
法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。


憲法第75条 国務大臣の訴追制限
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。


憲法に規定されている内閣総理大臣の職務を列挙しました。
内閣総理大臣に衆議院解散権がないことがわかります。

内閣の職務等

憲法第73条 内閣の職務
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。


憲法第3条 天皇の国事行為と内閣の助言・承認及び責任
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。


憲法第7条 天皇の国事行為
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
衆議院を解散すること。
以下省略


憲法第6条 天皇の任命権
天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。


憲法第80条 下級裁判所の裁判官の任命等
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。


 

第53条 国会の臨時会
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。


憲法第87条 予備費
予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。


憲法第90条 決算審査・会計検査院
国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。


憲法第91条 内閣の財政状況報告義務
内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。


憲法に規定されている内閣の職務を列挙しました。
第7条3号を内閣に衆議院解散権があると解釈できるかについては下記で検証します。

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憲法第7条3号は、内閣に衆議院解散権があることを規定しているのではありません

第69条を正しく理解するために条文を読点ごとに区切って検証してみましょう。

憲法第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。


  1. 「衆議院で」はどこまでを指していると思いますか。
    (A)「不信任の決議案を可決し、」、(B)「又は信任の決議案を否決したときは、」、(C)「十日以内に衆議院が解散されない限り、」の三か所に「衆議院で」は係っています。
    すなわち、(A)または(B)の場合は、衆議院で解散決議が認められることになります。
    これを言い換えると(A)または(B)がないときは、衆議院解散は認められません。
    さらに解散決議ができるには制約があり、(A)または(B)の決議があってから十日以内です。
  2. 内閣に衆議院解散権があるとするなら、憲法第73条の内閣の職務に衆議院解散ができるという項目が入っていなければなりませんが、それはありません。
  3. 憲法第7条3号は、「内閣の助言と承認により」天皇は「衆議院を解散すること」の国事行為を行うという規定ですが、広辞苑によると「承認」の意味は次の通りです。

    承認……正当または事実・真実と認めること


    「承認」は、「決定や決議」の意味を含んでいませんので、3号の「衆議院を解散すること」は内閣に解散権があることを規定していないことになります。
  4. 以上を総合すると、衆議院で(A)または(B)の決議があり、続けて衆議院で十日以内に解散決議がされなかった時、内閣は総辞職しなければなりません。
  5. 衆議院で十日以内に解散決議がされたとき、内閣はそれを承認し、天皇は国民のために「衆議院解散」の国事行為を行うことになります。

衆議院解散権が内閣総理大臣の専権事項とされる理由とは

Web上の衆議院の解散に次の記述がありました。

吉田茂首相は、憲法第7条( 天皇の国事行為が書かれてある条文 )を根拠に、内閣に一方的な衆議院解散権があると言った。
「 内閣の助言と承認により、国事に関する行為を行う 」…その中の1つに「衆議院を解散する」があるからだ。
内閣が自分たちの都合のいい時期に解散、すなわち選挙ができるというのはおかしい。
世論に注意を払って、内閣支持率が高い時を見計らって解散すれば、政権維持ができてしまう。
過去に、7条解散は違憲ではないかと最高裁まで争われたことがあった。 最高裁は違憲合憲の判断を放棄した。いわゆる統治行為論である


第69条に基づく決議なしに行われた過去の衆議院解散は無効であり、国民の税金が不当に費消されたことについては、憲法第3条に「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」と規定していますので、当時の内閣はその責任を取らなければなりません。

ウィキペディアの次の記述を読むと、2005年「郵政解散」当時に閣僚であった島村宜伸農林水産大臣のみが責任を負わなくて良いことになります。

衆議院解散を決定する権限は内閣に属する。
したがって、内閣総理大臣は閣議を開き、「今般、衆議院を解散することに決したので、国務大臣の諸君の賛成を賜りたい」と全閣僚に対して衆議院解散を諮り、内閣の総意を得た上で、衆議院解散を行うための閣議書に、すべての国務大臣の署名を集めなければならない。
しかし、日本国憲法第68条第2項は「内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる」と定めており、内閣総理大臣は「任意に」つまり時期や理由を問わず法的には何らの制約なく自由な裁量によって国務大臣を罷免することができる。
したがって、衆議院解散を行うための閣議書への署名を国務大臣が拒否する場合、内閣総理大臣は当該大臣を罷免して自身が兼任するか他の大臣に兼任させることで閣議決定を行うことができる。
先例としては2005年(平成17年)の『郵政解散』の際に小泉純一郎内閣総理大臣が、署名を拒否した島村宜伸農林水産大臣を罷免したのが唯一の例である。
極端に言えば、内閣総理大臣一人が他の全大臣を兼務する一人内閣で閣議決定することも可能である。
内閣総理大臣は国務大臣の罷免権を行使することによって最終的には解散権を完遂できることから事実上解散権は内閣総理大臣の専権事項とされている


憲法第68条は「国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない」と規定しているので、内閣総理大臣の一人内閣はあり得ず、したがって衆議院解散権が内閣総理大臣の専権事項であるという通説は誤っています。

憲法第68条
 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。


統治行為論とは

PDF 原島啓之氏の「統治行為論不要説」論文

「統治行為論」について原島啓之氏は、次のように述べています。

統治行為とは、たとえ司法の審査が可能であっても当該国家行為の政治性が高度であるという理由から裁判所が違憲審査権を放棄しなければならないとされる行為である。 


苫米地事件について

「苫米地事件」は、憲法第69条及び第7条3号を理由とした衆議院解散の是非を争った事件で、統治行為論を理由にして違憲審査権を放棄した裁判官と各条規は内閣にも解散権があると規定しているので憲法違反していないと解釈した裁判官によって上告が棄却された最高裁大法廷による裁判です。

事件の概要及び第1審、第2審判決の概略については、原島啓之氏の論文によると次の通りです。

苫米地事件(最大判昭和35年6月8日民心14巻7号1206頁)とは、1952年8月28日に第3次吉田内閣が自民党内の権力闘争を理由に抜き打ちで衆議院解散を行ったことに対し、当時の衆議院議員の苫米地義三が、「衆議院の解散は憲法69条の場合に限られるにもかかわらず、本件解散は憲法7条3号のみに基づいてなされており、また国事行為たる天皇の解散行為には内閣の助言と承認が必要であるが、本件ではこれらを欠いていた」として訴えを起こしたものである。
これに対し国は、衆議院解散のように政治性の強い行為について裁判所は審査権を有しないということを主張し、解散の合憲性とともに裁判所による違憲審査権行使の可否についても同時に争われた。
なお、第1審判決(東京地熱昭和28年10月19日行集4巻10号2540頁)では、「単に政治性が強いといふひと言だけで衆議院の解散の合憲性を裁判所の判断対象から除外することは出来ない」として統治行為論を避け、また衆議院の解散が無効と判断されることによって混乱が生じるとしても裁判所は無効判断をすることができ、また、解散の方式そのものが憲法に適合するかどうかは政策的な評価をすべて排除して可能であると述べて審査を行い、本件では内閣の助言があったとはいえないとして請求を認容した。
また、第2審判決(東京高判昭和29年9月22日行集5巻9号2181頁)では、本解散の効力は苫米地の権利に直接影響があるものであるという理由で第1審と同様に統治行為論を避けて審査を行い、本件では内閣の助言はあったとして第1審判決を取り消している。要するに、第1審、第2審では統治行為論は採用されていないことになる。


検証1:苫米地事件の最高裁判決について

PDF 苫米地事件の最高裁大法廷判決文

この裁判の裁判官は、裁判長裁判官 田中耕太郎、裁判官 小谷勝重、島保、斎藤悠輔、藤田八郎、河村又介、入江俊郎、池田克、垂水克己、河村大助、奥野健一、高橋潔、高木常七、石坂修一 です。

最高裁判決文を問題点ごとに区切って検証してみましょう。

上告論旨

  1. 原判決が本件解散は憲法7条に依拠して行われたもので、憲法に適合するものであるとしたのは衆議院の解散に関する憲法の解釈を誤つたものである
  2. 原判決が本件解散について、内閣の助言と承認が適法に為されたと判断した点に対し、採証の法則違背、審理不尽等の違法ありと主張するものである。

最高裁の認定事項

上告論旨にもあきらかであるごとく、本件解散無効に関する主要の争点は、本件解散は憲法69条に該当する場合でないのに単に憲法7条に依拠して行われたが故に無効であるかどうか、本件解散に関しては憲法7条所定の内閣の助言と承認が適法に為されたかどうかの点にあることはあきらかである。


最高裁は違憲審査権を放棄しました

最高裁は、上告論旨は裁判所の審査権に服しないとしました。

しかし、現実に行われた衆議院の解散が、その依拠する憲法の条章について適用を誤つたが故に、法律上無効であるかどうか、これを行うにつき憲法上必要とせられる内閣の助言と承認に瑕疵があつたが故に無効であるかどうかのごときことは裁判所の審査権に服しないものと解すべきである。


最高裁は国の行為も違憲審査の対象と認めています

日本国憲法は、立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法76条1項)、また裁判所法は、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法3条1項)、これによつて、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せずいわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとせられ、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限を裁判所に与えた(憲法81条)結果、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することとなつたのである。


最高裁は司法権に制約があると主張

しかし、わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。
直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。
この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである。


司法権に対する制約が三権分立の原理に由来するという最高裁の論理は、憲法上存在しません。
高度に政治性のある国家行為といえども憲法の条規に反する行為は違法であり、無効です。

自民党内の権力闘争を理由に抜き打ちで衆議院解散を行ったことは高度に政治性のある国家行為とはいえず、むしろ一部の内部抗争を衆議院議員全員及び国民までも巻き込んで自己の存続を図ろうとする行為は非難に値し、許されるものではありません。

憲法第98条に「憲法の条規に反する国務行為はその効力を有しない」と規定しています。

憲法第98条
 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。


最高裁は重ねて違憲審査権放棄理由を主張

衆議院の解散は、衆議院議員をしてその意に反して資格を喪失せしめ、国家最高の機関たる国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を一時的とは言え閉止するものであり、さらにこれにつづく総選挙を通じて、新な衆議院、さらに新な内閣成立の機縁を為すものであつて、その国法上の意義は重大であるのみならず、解散は、多くは内閣がその重要な政策、ひいては自己の存続に関して国民の総意を問わんとする場合に行われるものであつてその政治上の意義もまた極めて重大である。
すなわち、衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であつて、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは既に前段説示するところによつてあきらかである。
そして、この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であつて、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない。


憲法は前文で次のように理念を掲げています。

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。


国民は選挙を通して選出した衆議院議員全員に4年間の任期を信託したのであって、任期中であるにもかかわらず国民の信託に応えられない事由が生じたときは任期を終了させることも必要ですが、それを規定したのが第69条です。

裁判官が述べたような「内閣が衆議院を解散して自己の存続に関して国民の総意を問う」というような内閣の勝手次第な振る舞いを憲法は認めていません。

ここでもう一度憲法に規定されている内閣総理大臣や内閣の職務を読んで下さい。
内閣総理大臣や内閣に衆議院解散権がないのは明白です。

憲法の前文にある「その権力は国民の代表者がこれを行使し」の国民の代表者は、内閣ではなくて国会議員全員です。
第69条は「衆議院で」と規定されていますので、国民の代表者は衆議院議員全員であり、衆議院議員全員によって解散議決権を行使しなければなりません。

裁判官の独立性を放棄した最高裁

本件の解散が憲法7条に依拠して行われたことは本件において争いのないところであり、政府の見解は、憲法7条によつて、―すなわち憲法69条に該当する場合でなくとも、―憲法上有効に衆議院の解散を行い得るものであり、本件解散は右憲法7条に依拠し、かつ、内閣の助言と承認により適法に行われたものであるとするにあることはあきらかであつて、裁判所としては、この政府の見解を否定して、本件解散を憲法上無効なものとすることはできないのである。 


苫米地事件の最高裁判決以降、内閣による憲法第7条に依拠した衆議院解散によって多額の税金が費消され、国家、国民は多大な損失を被りましたが、それ以上に問題なのは総選挙によって選出された新人議員は衆議院議員としての資格がないのに国政に関与したこと、総選挙で落選した議員は衆議院議員としての任期が終了していないのに国政から排除され、その結果有効とはいえない国政が今日まで繰り返され続いていることです。

衆議院解散が第69条に依拠したものではなく内閣の助言と承認によって適法に行われたとする政府見解をを否定できないから、解散を憲法上無効と判決できないのは、最高裁は国民に向かって無力であると公言しているようなものです。

政府見解に服従して裁判官の義務である違憲審査権を放棄した最高裁裁判官の責任は重く、また、憲法を正確に解釈できずに衆議院を解散した総理大臣及び内閣の責任も重く、さらに裁判の当事者である国、すなわち法務大臣が憲法の条規を無視して統治行為論を主張し勝訴しようとした姿勢は厳しく非難されなければなりません。

検証2:最高裁判決の裁判官小谷勝重、同奥野健一の意見

PDF 裁判官小谷勝重、同奥野健一の意見全文

意見1:裁判官の違憲判断は裁判所の職責である

意見は、違憲判断は裁判所の職責であると次のように認めています。

多数意見は、先づ衆議院の解散が法律上無効であるかどうかは裁判所の審査権に服しないものであると判示する。
しかし、憲法に反した当然無効な解散によつて、違法に議員たる身分を奪われ、歳費請求権を喪失せしめられた者は、裁判所に対し訴訟によつてその救済を求めることの許さるべきことは勿論であつて、その場合裁判所は、先づ解散が憲法上適法なものであるかどうか、即ち有効か無効かを判断しなければならないことは当然であり、また裁判所の職責でもある。 


続けて次のように述べています。

例えば、上告論旨のいうように、若し、憲法が六九条の場合以外に解散を認めないものとすれば同条の要件なくしてした解散は違憲であり当然無効であると判断すべきものであつて、この場合でも解散は政治性の高いものなるが故に、裁判所の審査権が及ばないものとし、政府において、既に解散は合憲であるとしている以上、裁判所はそれに盲従し、憲法上無効な解散までも有効なものと判断しなければならないとすることは、憲法八一条の明文に照し裁判所の職責に反するものといはなければならない。
けだし、解散は憲法八一条にいう「処分」であつて、正に裁判所の違憲審査権の対象であるからである。


意見2:解散は69条に限られないと主張

解散は第69条に限られないとする次の意見は、条規の解釈を誤っています。

六九条は衆議院で内閣不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決した場合における内閣の採るべき措置について規定したものであつて、この場合、内閣は一〇日以内に衆議院が解散されない限り総辞職をしなければならないことを定めたものである。
そして、同条は「……衆議院が解散されないかぎり……総辞職をしなければならない」とあつて、解散のできることは当然の前提として、解散されなければ内閣が総辞職をしなければならないことに重点があるものと解すべきであり、同条によつて始めて解散を行い得ることを規定したものと解すべきではない。


ここで再度第69条を読んでみましょう。

憲法第69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。


裁判官の解釈に従うと条規の文言は次の通りでなければなりません。
「内閣は、…………………………ときは、十日以内に衆議院解散しない限り、総辞職をしなければならない。」

第69条は「衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院解散されない限り」と規定していますので、解散は衆議院で決議されなければなりません。

裁判官は「第69条によって始めて衆議院解散が行えるとした規定ではない」と解釈していますが、それは誤っており、正しくは「第69条によって始めて衆議院の解散が認められる」です。

意見3:裁判官が述べた解散権行使の可能範囲とは

意見は政府の解散権について次のように述べています。

元来議院内閣制の下においては、内閣は衆議院の信任を条件として成立、存続するものであるから、衆議院の信任を失つた場合には、当然総辞職をしなければならないのが原則であるが、憲法は抑制と均衡の原則から内閣はこれに対抗して衆議院を解散して主権者たる国民に信を問うことができる例外的対抗手段を認めたのが右六九条の規定であつて、この場合内閣は解散か総辞職か何れか一を選ばなければならないのである。
右の如く衆議院の解散は政府が国民に訴え、その意思を問う制度であるから、内閣不信任決議案の可決、または信任決議案の否決の場合以外にも、衆議院において政府提出の重要法律案、予算案などが否決された場合など同じく政府は国民に信を問う必要がある場合があり、また、政党の所属議員の数の異動などにより衆議院が国民の代表としての意思をよく反映しているか否かに疑の生じた場合その他国の内外に新な重要事態が発生し、新しい国民の意思を問う必要がある場合など解散を必要とする場合が右六九条の場合の外にも多々存することは否み得ないところである。 


解散または総辞職の何れかを選択する権利は、内閣にありません。
第69条による内閣の総辞職は。衆議院による解散決議の有無の結果次第で決まるものです。

政府案が否決された場合に内閣が衆議院を解散して国民の意思を問う必要がある場合が多々存するとして、裁判官は広範な事例を挙げていますが、あまりにも軽軽な意見に呆れ返ります。
裁判官の意見は、内閣総理大臣や内閣の思い通りにならないときは、衆議院解散を匂わせて民主主義に反する行政を行使し得ることになり、強権政治の容認になります。

意見4:第7条により内閣に解散権があると主張

裁判官は憲法7条について次のように述べています。

然らば、解散が右六九条の場合のみ可能であるとすることは前記の各場合に解散の途は閉されることになり、殊に、議院内閣制の下では多数党が内閣首班をとる慣例であるから内閣不信任の決議案が可決されることは殆どなく、実際上これによる衆議院の解散はあり得ないことになるのである。
憲法によれば、衆議院の解散は憲法七条により行われるのであるが、同条は解散の場合を何ら制限していないのである。
従つて、右六九条は衆議院解散についての一の場合を規定しているものと解すべきであつて、同条の場合以外に全然解散を認めない趣旨であると解すべきものではない。
そして、衆議院の解散は六九条の場合をも含めて、内閣の助言と承認によつて天皇が右七条により、国事に関する行為としてこれを行うのである。
天皇の行う解散は、内閣の助言と承認によりなされるものであつて、天皇は形式的儀礼的にこれを行うのであるから、衆議院解散の決定権は、内閣にあるものと解さねばならない。 


裁判官の意見のように衆議院解散権が内閣にあるとするなら、憲法第73条の内閣の職務に衆議院解散が規定されていなければなりませんが、規定されていません。

憲法第45条には衆議院議員任期の規定があります。

衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。  


衆議院議員の任期が憲法で決まっているにもかかわらず解散が認められるには、相応の決議要件が別途規定されていなければなりません。
第69条には決議要件があり、第7条には決議要件が規定されていません。

意見5:天皇の国事行為と内閣の責任

意見は、「衆議院の解散が内閣の助言と承認により行われることは有効な解散の必要条件」と述べていますが、果たしてそうでしょうか。

 次に、多数意見は、衆議院の解散に必要な内閣の助言と承認についても、その無効であるかどうかは、裁判所の審査権に服しないものであると判示する。
 しかし、衆議院の解散が内閣の助言と承認により行われることは有効な解散の必要条件であつて、その要件を具備した内閣の助言と承認がない場合の解散は憲法上無効であるから、衆議院の解散の有効無効を決するためには、この点の判断は不可決なものである。
よつて、本件において内閣の助言と承認があつたかどうかについて検討するに、憲法七条にいう内閣の助言と承認とは第一審判決のいうように両者を切り離して考えるべきものではなく、要するに、天皇の国事行為については、内閣が実質的決定権を有し、天皇は内閣の決定するところに従い、形式的儀礼的に国事行為として衆議院の解散を行うという趣旨と解すべきである。 


憲法第3条は次のように規定しています。

憲法第3条
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。


広辞苑によると承認の意味は、「正当または事実・真実と認めること」です。

「承認」は、「決定や決議」の意味ではありませんので、裁判官意見の「内閣が実質的決定権を有し、天皇は内閣の決定するところに従い国事行為を行う」は誤りで、「天皇は内閣の助言と承認を得たので国事行為を行う」と解釈するのが正しいと思います。

検証3:最高裁判決の裁判官河村大助の意見

PDF 裁判官河村大助の意見全文

河村大助裁判官の意見は、検証2の裁判官小谷勝重、同奥野健一とほぼ同じ理由なので、意見の一部を以下に抜粋します。

憲法八一条は裁判所に一切の法律、命令、規則、処分が憲法に適合するか否かを決定する権限を与え、裁判所法三条は右規定に立脚して憲法に特別の規定ある場合を除き裁判所に一切の法律上の争訟を裁判する権限を附与しているのであつて、所謂統治行為なるものを司法審査の対象から除外する旨の明文の存しないことは明らかである。 


しかし憲法六九条は本来国会の不信任に基く内閣の総辞職について規定したものであつて、ただ同条には「衆議院が解散されない限り」ということがつけ加えられているので、解散が行われることを予定しているとはいえるが、同条に関係のない解散の可能性を一般的に否定する趣旨を含むものでないことは明らかである
そして憲法は如何なる場合に解散をなし得るかにつき特にその要件を定めていないのであるから、その決定は、解散権を有する機関の政策的ないし裁量的判断に委ねられているものと解すべきである。  


憲法七条三号は衆議院の解散を天皇の権限としているが、天皇は国政に関する権限を有しないため(四条)天皇の国事行為としての解散は、他の機関の解散決定に基き、これを外部に表示する権能すなわち形式的宣示行為に過ぎないものであつて、この天皇の形式的行為に対し内閣は助言と承認を与えることになるのであるから、その解散の実質的決定は右助言と承認に先行するものと解すべきであろう。
しかして、その実質的解散権について特別の定めのないわが憲法においては、内閣に実質的決定権があればこそ天皇の形式的宣示行為に助言と承認をなすべき責務をも負わせたものと解することができる。
すなわち右助言と承認の規定は内閣に実質的解散権が存在することを予定されているものと解するを相当とする。
また前記六九条においても内閣は解散するか総辞職するかの何れか一を撰ぶべきことを余儀なくされているのであるから、同条も内閣が実質的解散権を有することを予定しているものと解することができる。
のみならずわが憲法は所謂自律的解散は認めない趣旨と解せられるから、少ともその解散権が立法部及び司法部に属しないことは明らかである。
この点からみても憲法は解散の決定を内閣に担当せしめたものと解するほかはない。


本件において原審の引用する乙第一号証によれば閣僚全員承認の下に衆議院解散の詔書案及び衆議院議長宛伝達案等が決定され、昭和二七年八月二八日施行されたことを窺うに足りるから、同号証のみを以てしても、天皇の解散宣示行為が内閣の意思に基くことを証し得て、憲法の要求は十分に満されたものと解するを相当とする。  


検証4:最高裁判決の裁判官石坂修一の意見

PDF 裁判官石坂修一の意見全文

多数意見は、裁判所に、衆議院の解散が法律上無効であるか否か、また衆議院の解散に必要とする内閣の助言、承認の無効であるか否かにつき審査する権限がないと判示する
衆議院を解散すべきか否かの問題と、憲法の条章に遵ひ内閣の助言、承認を経た、有効なる衆議院の解散が行はれたか否かの問題との間には、自ら分界がある。
前者について、裁判所に審査権のないこと、当然であるけれども、後者については、裁判所に審査権があるものとせざるを得ない。
その理由とする所は、憲法七条三号の解散行為が単に儀礼的意味を持つのみであるか否かは別として、小谷、奥野両裁判官の所見と異らない
而して、審査の結果、本件解散は、憲法の条章に遵ひ、内閣の助言、承認を経て行はれ、有効なものであるとの判断に至つたのであつて、これと同趣旨に出た原判決を維持するものである。 


意見は二つに分けて判断しその一つに「衆議院を解散すべきか否かの問題について、裁判所に審査権がない」と述べています。
裁判所は立法府ではありませんので裁判所に審査権がないのは当然です。

上告人は裁判所に「衆議院を解散すべきか否か」の判断を求めているのではなく、衆議院解散が憲法に抵触しているので解散は無効であるという憲法判断を求めているのです。

もう一つの「解散が憲法の条章に遵ひ有効か否か」については、裁判所に審査権があり、小谷、奥野両裁判官の所見と異らないと述べています。

  ま  と  め

最高裁判決の各意見を一覧にしました。

裁 判 官 憲法第69条 憲法第7条
多数意見(10名) 統治行為論により違憲審査権放棄 統治行為論により違憲審査権放棄
小谷勝重裁判官             奥野健裁判官 国政についても違憲審査義務はあるが、第69条は内閣に解散権があると規定している 国政についても違憲審査義務はあるが、内閣の助言と承認により国事行為が行われているので解散は憲法違反していない
河村大助裁判官    同 上    同 上
石坂修一裁判官    同 上    同 上

裁判官を拘束しているのは憲法と法律だけです。
国政に関する司法判断を求められたときでも、法規を正しく解釈して判決しなければならないという義務があることを裁判官は忘れてはいけません。
条規の解釈は唯一なので各々の裁判官の解釈が異なる場合は、いずれか一つが正しいか、あるいはすべてが誤りということになります。

判決文は、最高裁裁判官としての適否を見極める最大の資料です。

国が裁判の当事者になった場合、法規を無視して勝訴することのみを主眼とした主張を行うことは、国家、国民のためにならず、過ちが繰り返される原因にもなります。

訴訟の当事者となった国の代表者である法務大臣及びその代理人についても国民は厳しい目を向けるべきだと思います。