5.顎関節症難民が増加しているのはなぜか
まずは正確な顎口腔器官の構造とメカニズムを知ることが大切
皆さんはテレビに映る多くの人々の顔と首筋を見て、何か異常を感じませんか。それが老若男女関係なく急激に増加していると思いませんか。
しこり、硬直、ひきつれ、たるみ、ゆがみ、左右非対称、皮膚の荒れ等、何が原因でこのような現象が生じていると思いますか。
一番に考えられることは、歯科医療過誤です。
平成21年6月10日、NHKゆうどきネットは、「顎関節症難民」が増加していると報道していました。
「がん難民」増加が言われてから久しいですが、それと同じ現象が顎関節症患者にも現れ、多くの人々は今後顎関節症とそれに起因した数々の疾病をかかえて、放浪の危機に直面していくことになります。
次の放送や書籍を参考にして、医療従事者の知識の問題点を検証していきましょう。
① 平成21年6月10日放送のNHK「ゆうどきネット」
② 平成17年7月13日放送のNHK「ためしてガッテン」
③ 書籍「入門顎関節症の臨床(著者:中沢勝宏)」
(注)以下において図の表記が数字のものはNHK放送画面より(ゆうどきネットは「Y」を、ためしてガッテンは「T]を付加)、英字のものは書籍からの引用です。
1.開閉口における正常な下顎の運動経路とは
01図は、正常な状態を示していません。閉口時なのに下顎頭が関節隆起からはみ出しています。
02図は、開閉口により下顎頭(下顎骨の後方上部最先端)が動いていく経路を私が赤で加筆しました。
正常な時の下顎頭は、閉口時に「A」の関節隆起内に納まり、開口するに従い下顎頭が上顎骨に沿って前方に動き、最大開口時には、「C」に位置します。
「B」地点に上顎骨の突起がありますので、歯科治療の時に患者に大きな口をあけさせて、医師が口の中に指を入れて唇周辺や頬等の筋肉を外側に向かって押したりすると、顎口腔周辺の筋肉に異常が生じて下顎頭が偏位したり、異常になった筋肉の影響を受けて閉口時に上顎骨の突起「B」をスムーズに越えられなくなったりします。
2.下顎頭の構造と奥行きのある関節隆起
A、B、C図はいずれも下顎頭を示したものです。
下顎頭は複雑な形をしているにもかかわらず、図の説明にあるように上顎骨の狭い窪みである関節隆起(私が加筆したB図矢印)の後面にきれいに納まるようになっています。
歯科医療によって下顎骨が少しでも偏位すると、下顎頭は関節隆起に納まることが困難になったり、偏位した状態で入り込むと今度は開口時に外に出られなくなることは、関節隆起の複雑な形状や狭さ、下顎頭の上部面積の広さから理解できると思います。
歯科治療後に顎関節症を発症し、口が開きにくくなったり、関節雑音が発生したり、筋肉が突っ張たり、痛み等顔全体に違和感が生じる理由は以上から理解できると思います。
3.関節円板は、下顎頭から外れません
放送は、閉口時に上下歯を強く噛み締めていると、顎関節周辺に強い刺激が伝わり、その結果開口時に何らかの拍子に関節円板のみが前方に外れると説明していましたが、関節円板は外れやすい構造になっていませんのでこの説明は誤っています。
また、右図にあるように、多くの歯科医師は下顎頭が開口時も閉口時も同じところに位置し、開閉口は筋肉の伸縮のみで行われていると考えているようですが、これも大きな誤りです。
D 図からわかることは、次の通りです。
① 外側翼突筋は上頭と下頭の二つがあり、いずれの筋にも関節円板に停止部がある。すなわち、関節円板は外側翼突筋にしっかりと付着している。
② 外側翼突筋の上頭と下頭のいずれもが、下顎頭に付着している。
02図で示したように、口を開閉するたびに下顎頭が上顎骨に沿って前後に動くので、上顎骨と下顎頭の間に何かクッションになるものがないと上顎骨と下顎頭が擦れ合って大変なことになります。そのために関節円板というクッションが下顎頭に付着しています。
下顎頭に付着している外側翼突筋に関節円板がしっかりと付着しているのに、医師はなぜ関節円板が外れるというのでしょうか。
このような医師の知識により、顎関節症患者の中には「関節円板前方転位」という病名をつけられた方も多いと思います。
4.下顎の運動経路を実像で確認しましょう
テレビ映像を動画で掲載できないのが残念ですが、次に示す5枚の静止画像で検証してみましょう。
いずれの画像も同一人(放送でその旨の発言あり)の下顎運動の状態ですが、医師とキャスターが異なる発言をしていますので、歯科医療過誤の実態の一部を知るうえで参考になると思います。放送されたときの音声も聞いてください。
ナレーターは、赤矢印で示した箇所が黄色の部分であることを説明しています。
この画像は閉口時であるのに、下顎頭が関節隆起の中に納まっていないことがわかります。
上記A図の下顎を参照すると、04図の下顎は本来撮影されないはずの青の矢印(私が加筆)方向が写っていると思われます。
映像の形から下顎骨の偏位を考察することが何よりも重要です。
この画像から、下顎が上下、左右のどのような方向に偏位しているかを、専門家は正確に判断できなければなりません。
画像は、閉口時に下顎頭が関節隆起のところまで戻れず、上記02Y図{B」の上顎骨の突起部分近くに位置しているようです。
口を小さく開いた場合の運動経路は、赤印(私が加筆)の範囲を往復し、大きく開いた場合は矢印のところまで動きました。
音声は最初と最後がナレーターで、中間が専門医と受診者の会話です。
音声を聞いておわかりになったと思いますが、専門医が開閉口時の下顎の運動経路を正確に知らないことです。
テレビに映る人々の下顎運動の異常が増加しているのは、このように医師の知識が誤っていることに原因があるようです。
08図は黄色の印がつけられる直前のものですが、その部分が下顎頭から外れた関節円板に見えますか?関節円板とされる黒い部分とその上下の白い部分や周辺とが一体になっていると思いませんか?
キャスターはこの画像の説明をする前に、顎の模型を使って正常な下顎の動きを説明しました。その内容は、上記02図の通りでした。
テレビ局は上記専門医の音声の内容で医師の知識が誤っていることを知りながら、同一人のものと断りを入れて、関節円板が外れていると説明したのはなぜか。
ところで「05図及び06図」と「08図」は、同一人の画像とは思えません。
なぜなら、05図の上顎骨の突起部分を越える前の下顎頭の形が異なっているし、上顎骨周辺の白っぽい箇所が08図には全くありません。
筋肉がこわばると図のように骨が変形して、ガリガリという関節雑音を発したり炎症を起こしたりするという説明でしたが、それは誤っています。
下顎骨が偏位して異常な摩擦が繰り返されれば磨り減って変形するのは当然ですが、一見してすぐに変形と断言するのは軽率です。
09図を見たらまず上記C図を頭に浮かべ、下顎頭を回転させていくと09図の右の図に近くなると想像できます。多少の変形が生じているとは思いますが、下顎骨が偏位していると考えるのが妥当だと思います。
ためしてガッテンでは、6名の若者が顎関節の撮影に協力し、2名が正常、4名が異常という診断で、1名の映像のみ放送されました。
放送されなかった5名の映像も放送していただきたいと思います。、そうすることによって多様な下顎偏位の様子がわかると同時に、専門医による正常と異常の診断がどのようなものかを一般人が知る最も有益な情報になるに違いありません。
開口量測定は、過誤医療である
顎関節症の診断の一つに開口量測定があります。
10図は、おそらく患者自身が最大に開口し、医師の指は下顎に軽く当てられた状態を示していると思います。
11図は、医師が下顎に当てた指に力を加えて開口を広げたうえに、測定器を強く口内に押し込んだ状態を示しています。
開口量測定器を当てられた全ての患者はこのようなことをされて、直後から顎口腔周辺の異変が拡大し、苦痛が増したと感じたことでしょう。
開口量の数値を改善の目安にしている医師から無理な力を加えられて、開口量が改善したと言われた患者は、逆に体調が悪化し、それを訴えても全く理解しようとしない医師に不満や不信を覚えたと思います。
10図は最大開口時なのに上下の唇が垂直にならず、下顎が後方に傾いていることがわかります。
ためしてガッテンでも数人に指が何本口の中に入るか聞いていましたが、顎関節の異常の有無の確認もしないでこのようなことをさせると、下顎が偏位している人はさらに下顎が複雑に偏位します。また、顎関節が正常な人であっても無理に最大開口をさせて顎口腔周辺の筋肉に異常を生じさせるとたちまち顎関節症を発症します。
問題なのは、医師が顎関節の構造や顎口腔全体のメカニズムを正確に知らないことです。
舌に歯形がつく患者が増加しているという
口を閉じた際に舌を歯の裏側に強く押し当てるために、舌のまわりに歯形が付く患者が増加しているという。
このような患者が増加するのは当然だと思います。
舌の長さ等は決まっているのですから、下顎が後方に押し付けられたり螺旋状にねじれたりすると舌は行き場を失い、歯に強く当たらざるを得ません。
12図は、舌の中央に亀裂があり、歯形以外にも舌の荒れ方がひどいと思います。
13図は、舌が右頬側に寄っていますので、下顎骨は右回りに偏位していると思います。また、右端の歯(左臼歯部)は、治療の跡が見えます。隣の歯より随分短くなっています。天然歯が治療により相当削られたうえに補綴治療の際の咬合の決め方の不適切さが推定できます。
話が横道にそれますが、ラジオでの健康相談を聴いていたときに次のような相談がありました。
二十歳の男性が学校の歯科検診で不正咬合だから歯列矯正をするように言われ、下の歯を2本抜いて歯列矯正をしたところ、舌が自由に動かず話づらくなった。歯列矯正をする前までは全く不都合がなかったのに、どうしたらよいですかという質問に対して、某歯科大学大学院の教授が、その場合は舌の手術をすることになりますと答えました。相談者はこれを聞いてとても沈んだ声になりました。
顎関節や周辺の筋肉等、顎口腔全体の調和に全く問題がなく、咀嚼もスムーズであったにもかかわらず、医師が歯並びの状態のみを見て不正咬合と診断し、2本の歯を抜いて歯列矯正をすれば口内は狭くなったり、あるいは口内の変形で舌の付け根が影響を受けてねじれたりします。大きさの変わらない舌が動きづらくなるのは当然で、次は舌の手術が必要と平然として言う医師の考えが、歯科医療の世界で通用することも医療過誤が多発する原因の一つです。
ゆうどきネットの番組に戻りますが、東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部の木野孔司准教授は、次のような話をされました。
「上下の歯が接触する時間は1日平均17.5分である。ストレスが増えると上下の歯を接触させ続ける時間が長時間化しそう。それが続いてしまうと関節や筋肉に負担がかかりすぎて発症する。
上下の歯をつける癖のコントロール、これを確実にすることが顎関節症予防に最大の効果がある。リラックスした状況が維持できれば顎関節症は本来は発症しないはずである。」
准教授は、多くの患者がストレスから上下の歯を接触させたり、かみ締めていると考え、歯をかみ締めているくせの原因を探ろうとしているという。
そのため患者の日常生活のくせを問いただして、患者にくせを気づかせ意識的に見直してもらうことで受診者の9割以上に症状の改善があったという。
医師はストレスや生活習慣が顎関節症の発症原因というが、それは正しくない
番組の中で、医師はしきりに悩みやストレスの有無を数人の患者に問診していました。
画像の患者に対しても行っていますが、図をみてわかるように唇の状態から左側下顎がかなり後方に偏位している様子がうかがえ、皮膚に凹凸があるのは顎口腔周辺の筋肉の異常の影響を受けたものと考えられます。また、左右の肩も下顎の偏位と平行していることがわかります。
それなのに医師は、視診からうかがえる患者の異常に全く無関心で、悩み事を聞きだし、それを顎関節症の発症原因にしています。
この番組中、木野孔司准教授は問診、触診、開口量測定だけで、直接的な治療は一切ありませんでした。
同病院における顎関節症受診者の9割が触診、問診(ストレスや日常生活のくせの聞き取り)、開口量測定の診察により、患者のくせを特定、治療法はそのくせを改めさせるという方法で顎関節症が改善したという説明でしたが、患者はほんとに改善したと思っているのでしょうか。
医師と患者の間には相当な認識の開きがあると思います。同一病院、または同一医師の治療を受けた患者同士がまとまって声を出さない限り、医師の一方的な情報が横行することになります。