8-3.安倍元総理の国葬は憲法違反
安倍元総理の国葬を岸田総理が決定した理由
岸田総理は安倍元総理の国葬決定について、9月8日の国会閉会中審査で次の理由を挙げました。
- 民主主義の根幹たる国政選挙を6回にわたり勝利したこと
- 安倍元総理は憲政史上初最長の8年8カ月にわたり首相の重責を担ったこと
- 東日本大震災復興や経済再生に尽力したこと
- 日米同盟を基軸とした戦略的外交の展開を主導し平和秩序に貢献したこと
- 民主主義の根幹たる選挙中での非業の死であること
- 各国からの敬意や弔意に対し日本国として礼節をもってこたえること
- 来日する各国要人と集中的に会談し、安倍氏が培った外交的遺産を受け継ぎ発展させること
総理大臣は国家、国民及び諸外国との関係において最善を尽くすのは当然の義務なのですから、国家、国民に記憶に残るような功績でない限り、功績を取り上げるのは難しいと思います。
それよりも総理大臣在任中すべての国政選挙で自民党が勝利したことを挙げていることから、特定の政党に報いた功労を多分に含んでいることになり国葬よりも自民党葬が最適なのではと思わざるを得ません。
検証1:内閣府設置法第4条3項33号は国葬決定の根拠にはなり得ません
岸田総理は、国葬決定が認められる理由に内閣府設置法第4条3項33号を挙げましたが、国葬が認められる根拠にはなりません。
内閣府設置法
(設置)
第2条 内閣に、内閣府を置く。(任務)
第3条 内閣府は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。
2 前項に定めるもののほか、内閣府は、皇室、栄典及び公式制度に関する事務その他の国として行うべき事務の適切な遂行、男女共同参画社会の形成の促進、市民活動の促進、沖縄の振興及び開発、北方領土問題の解決の促進、災害からの国民の保護、事業者間の公正かつ自由な競争の促進、国の治安の確保、個人情報の適正な取扱いの確保、カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保、金融の適切な機能の確保、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けた施策の推進、政府の施策の実施を支援するための基盤の整備並びに経済その他の広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする。
3 内閣府は、第一項の任務を遂行するに当たり、内閣官房を助けるものとする。2項及び3項記載省略(所掌事務)
第4条 内閣府は、前条第一項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第二項第二号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。
第1項1号から32号まで記載省略第2項 前項に定めるもののほか、内閣府は、前条第一項の任務を達成するため、内閣総理大臣を長とし、前項に規定する事務を主たる事務とする内閣府が内閣官房を助けることがふさわしい内閣の重要政策について、当該重要政策に関して閣議において決定された基本的な方針に基づいて、行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務をつかさどる。
第3項 前二項に定めるもののほか、内閣府は、前条第二項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
第1号から32号まで記載省略
第3項33号 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。
第34号から62号まで記載省略
内閣府の任務は、内閣府設置法第2条により内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることです。
第4条で内閣府の所掌事務を具体的に規定していますが、任務の内容は、「行政各部の施策の統一を図るために必要となる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務をつかさどる。」ことで、同条3項33号は、国の儀式に関する事務に関することを規定しているのですから国葬という重大事項を決定する権限は内閣府にありません。
検証2:内閣も国葬を決定する権限はありません
第65条 行政権は、内閣に属する。
第66条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
② 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
③ 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
内閣の職務を規定している憲法第73条に国葬を決定する権限は規定されていません。
また、国葬は一般行政事務ではないので「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」と規定されていることから、国会の決議を経ていない国葬は認められないことになります。
検証3:内閣総理大臣も国葬を決定する権限はありません
憲 法
第72条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出することです。
内閣総理大臣に国葬を決定する権限がないのは明らかです。
国葬について憲法や法律に規定がない以上、国葬の実施は憲法違反になりますので安倍元総理の国葬が実施された場合の費用は内閣が全責任を負うことになります。
検証4:国葬予定日間近の9月8日に国会の閉会中審査が開催されました
2022年9月8日国会の閉会中審査
立憲・泉健太氏
──閣議決定までに三権の長にはかったか。各党に相談したか。
首相:内閣府設置法および閣議決定を根拠として実施を決定した。
国葬儀は司法・立法・行政、間違いなく行政権に属するものと認識している。
内閣府設置法に記載されていることからも明らかと認識。閣議決定に基づいて開催を決定した。その段階までに三権の長に図ったかとのことだが、根拠は今申したとおり。説明が丁寧だったかは、判断することも大事だが、国民に対する説明理解が大事ということも間違いない。説明不十分という声は謙虚に受け止める。引き続き丁寧に説明する。
──内閣法制局は「一定の条件に該当する人を国葬とすると定めることについては法律を要する」と言っている。選考基準を示したような、そういう法律はあるか。
首相:御指摘のような法律はない。しかし行政権の範囲内ということで先程申した判断、法制局にも判断を仰ぎながら政府として決定した。
──佐藤栄作元首相は当時戦後最長の在任期間だった。ノーベル平和賞も受賞した。でも国葬ではなかった。なぜか。吉田元首相の国葬の反省も踏まえ、法律も選考基準もない、三権の長の承認が必要な国葬は難しいからだ。だから内閣・自民党合同葬を行ってきた。これまでの深慮遠謀を壊して国葬を強行している。それが総理ではないか。
首相:基準を定めた法律がないという指摘があったが、いま国葬儀について具体的に定めた法律はないが、行政権の範囲内で内閣府設置法と閣議決定を根拠に決定した。
出典: 国葬で国会閉会中審査
国の行為について国民にさらなる義務を課したり行為を共有するものでない限り、具体的な法律は必要ないという学説に基づいて政府として考えている。
明確な基準がないと言う指摘、行為をどう評価するかは、その時の国際・国内情勢によって評価は変わる。同じことでも50~60年前ではどう評価されるか。基準もつくっても国際・国内情勢で判断するのが現実。
その時々、都度都度、政府が総合的に判断し、葬儀形式を判断する。それがあるべき姿だと考えている。
岸田総理の発言のポイントは次の通りです。
- 内閣府設置法および閣議決定を根拠として実施を決定した
- 国葬儀は行政権に属するものと認識している。
- 法律はないが行政権の範囲内ということで法制局にも判断を仰ぎながら政府として決定した。
- 明確な基準がない行為をどう評価するかは、その時の国際・国内情勢によって評価は変わる。
同じことでも50~60年前ではどう評価されるか。基準もつくっても国際・国内情勢で判断するのが現実、その時々、都度都度、政府が総合的に判断し、葬儀形式を判断する。それがあるべき姿だと考えている。
(注:50~60年前と発言していましたが、50~60年後のことだと思います。)
上記4.の「基準もつくっても国際・国内情勢で判断するのが現実。
その時々、都度都度、政府が総合的に判断し、葬儀形式を判断する。それがあるべき姿だと考えている。」は、 為政者が憲法や法律を正当に解釈して統治した行為は将来においても評価は変わらず、逆に憲法や法律の規定に反する為政は容認されず後世においても強く非難されるでしょう。
検証5:吉田茂元首相の国葬決定とその後の議論
吉田茂元首相の国葬決定とその後の議論によると、国葬が行われた後に国葬の是非について次のような議論がありました。
- 吉田氏が亡くなって3日後の1967年10月23日、政府は国葬について閣議決定を行いました。
- 「故吉田茂国葬儀記録」には開催までの議論の様子も記されていて、国葬の法的根拠については「法律的にも制度上にも国葬についての規定がないので、国葬儀に踏み切るまでには、あらゆる角度からその是非が検討」されたと記されています。
- そして、1951年に行われた大正天皇の后、貞明皇后の「大喪儀」が「閣議了解により執行」されたことから、「これらを決定のよりどころとして、閣議決定することによって事実上の国葬を行えるものと結論した」としています。
- 国会の記録を分析すると、国葬の後、法的な根拠などの課題について一時議論されていました。
- 国葬の翌年の1968年、衆議院決算委員会で野党議員が「国葬を政府が思いつきですることは承服できず、基準が必要だ」と述べました。
- 当時の大蔵大臣は「国葬儀についてはご承知のように法令の根拠はない。私はやはり何らかの基準というものを作っておく必要があると考えている。そうすれば、予備費の支出も問題がなくなる」と答弁し、基準の必要性について言及しました。
- また、その翌年の1969年の参議院内閣委員会で「国葬の基準を国会で決める必要があるのではないか」という質問に対し、当時の総理府総務長官は「いずれは検討されなければならない」と答弁しています。
- しかし8年後の1977年、当時の総務長官は「吉田総理が亡くなった時には内閣の決定で行っているので、法律というよりも閣議の決定によって国葬は今後行われてしかるべきものだという考え方を持っている」と答弁し、閣議決定で問題ないという見解を示しています。
当時の総務長官の「吉田総理が亡くなった時には内閣の決定で行っているので、閣議決定で問題ない」という見解は、憲法や法律の規定に基づいた説明ではなく、先例があるからそれで良いという単純思考の答弁に他なりません。
検証6:佐藤栄作元首相の葬儀決定の流れ
佐藤栄作元首相の葬儀は、当時の吉国一郎内閣法制局長官が国葬について、「法制度がない」、「三権の了承が必要」との見解を三木武夫首相に示し、こうした指摘を受けて三木政権は国葬を見送り、国民葬としました。
三権の長(さんけんのちょう)とは、三権分立の原則に基づいて統治機構を構築している国家において、それぞれ三権(立法権、行政権、司法権)を司る機関の長を指す。 立法権は国会が行使するため、その長は衆議院議長と参議院議長となる。 行政権は内閣に属するので、その長は内閣総理大臣(首相)、そして司法権の長は最高裁判所長官となる。
出典:三権の長
吉国内閣法制局長官は三権の長の承認が必要との見解を示しましたが、三権の長にそのような権限があって法律に規定されていないことは三権の長の承認があれば実行できると考える内閣法制局に唖然とします。
国葬は閣議決定を経て総理大臣が議案を国会に提出し、国会の決議で決めるべき問題だと思います。
検証7:自民党の二階氏は国葬について次のように発言しました。
出典:自民党二階議員発言
長年、立法府に携わっている国会議員の発言としては失望の極みです。
憲法や法律に基づいた発言は一切なく、二階議員の個人的な意識の主観、感覚や観念に伴って起こる感情を述べています。
多額の税金が使われる以上は、国会議員として法に基づいた意見を述べるべきです。
ま と め
冒頭に記載した「安倍元総理の国葬を岸田総理が決定した理由」にあるようなことで国葬が決定されたことに疑問を感じた国民は多いのではないかと思います。
尽きるところ総理大臣の功績の是非の判断は難しく、国葬の基準を規定するのは困難と思います。
国会の閉会中審査で立憲民主党の泉健太議員が「閣議決定までに三権の長にはかったか。各党に相談したか。」と質問していましたが、過去に示された見解を引き合いに出して質問しても無意味で、野党は自ら憲法や法律の規定を調べて国葬実施の可否を質問していくべきと思います。