顎関節症は医原病であり、万病のもとです

歯科医療過誤は全身を蝕みます。
自然科学の論理なき医療行為は、新たな病気の発症を招きます。それは医原病です。

Top

6.無戸籍の子の母親は、新旧の民法及び戸籍法の該当する各条文を読み比べて新旧の規定の相違点を理解しましょう。
そのうえで長年の通説の誤りを打破して、子の無戸籍解消のためにすぐに出生届出をしましょう

無戸籍の子の出生届出に関する大阪高裁判決について

30年前に暴力が原因で夫と別居し、別居中に別の男性との間の子を出産しました。夫との離婚後に男性の子として出生届出をしなかったため、子は無戸籍になってしまいました。

女性は嫡出否認の権利を男性にだけ認めた民法の規定が違憲であるとして提訴し、2018年8月30日に大阪高裁で判決がありました。

大阪高裁(裁判長裁判官 江口とし子、裁判官 山田明、角田ゆみ)は、「一定の合理性がある」として合憲の判断を示しました。そして「国会の立法裁量に委ねられるべき問題。家族を巡る制度全体の中で解決を図るべき」と指摘し、立法への対応を求めました。

女性の主張及び大阪高裁の判決は、民法や戸籍法に照らし正当とは言えません。

2018年8月30日の大阪高裁判決文は別掲の通りですが、新旧の民法及び戸籍法を比較しながら順に検証することによって、大阪高裁の判決が必要な関連する法律の条文を網羅した上での判断でないこと及び実親子関係の原理原則を知らないことに尽きる軽薄な判断に基づくものであることがわかるでしょう。
大阪高裁判決文の詳細な検証は、新旧の民法及び戸籍法の検証をした後で検証することにします。

判決文平成30年大阪高裁判決文

検証1:始めに新法(現行法)適用に該当する昭和44年最高裁判決の事実関係を確認しましょう

裁判の事実関係と判決内容は下記の通りですが、注目すべき点は、民法上嫡出性の推定に該当する子について母が嫡出でない子としての出生届出をして、それが受理されていることです。

判決文 昭和44年判決文

最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁の概要は次の通りです。

裁判の当事者の一方は、子を認知しない父とされる男性(上告人)で、子(被上告人)からの認知請求に対し、男性は認知の訴えの前に夫からの嫡出否認の訴えが必要と主張しました。

昭和年月 認 定 事 実
21年 嫡出でない子の母Dは、訴外Eと結婚
24年4月頃 Eと事実上の離婚をして別居し、爾来同人とは全く交渉を絶った
25年9月頃 上告人の男性とDは肉体関係を持ち、39年3月頃まで続いた
26年10月2日 Eと正式に離婚
27年3月28日 子B1を出産し、母は嫡出でない子として出生届出をした
31年1月31日 子B2を出産し、母は嫡出でない子として出生届出をした

この事実認定からもわかるように新民法及び新戸籍法の規定に基づいて、母は「嫡出性の推定」に該当しても「嫡出でない子」として届け出て、それが受理されています。

出生届出義務者である母が、嫡出でない子として届出たため行政は婚姻の有無を確認する必要がありませんでした。
行政は、婚姻中の夫婦の私生活の実態に具体的に踏み込むことはできません。
行政は届出人の意思に基づいた届出を審査したうえで不備がないときは受理する義務を負っていますが、審査する内容は法で義務付けられた範囲に限られます。

実親子関係は生物学的事由に基づくのは当然であって、「嫡出子出生の届出」があった場合に限って「嫡出性の推定に該当」するか戸籍の記載との整合性を確認する義務が生じるだけです。

判決文には次のような記述もあります。

被上告人B1は実質的には、民法772条の推定を受けない嫡出子というべく、同被上告人はEからの嫡出否認を待つまでもなく、上告人に対して認知の請求ができる旨の原審の判断は正当として是認できる。

皆さん、この判決理由はおかしいと思いませんか。

一つは、「民法772条の推定を受けない嫡出子というべく」です。

「民法772条の推定を受けない嫡出子」ではなく、「民法772条の推定を受けない嫡出でない子」でなければいけないと思います。
裁判官は「嫡出子」の正確な意味を知らなかったようですね。

もう一つは、「Eからの嫡出否認を待つまでもなく」です。

Eは、父として戸籍に記載されていないのですから、「Eからの嫡出否認を待つまでもなく」ではなく、「Eは嫡出否認の訴えはできない」ということになります。

ジャンプ前に戻る

検証2:実親子関係に関する新旧の民法規定は、内容が同一です

新民法は昭和23年1月1日から施行され、これに伴い旧民法は廃止されました。
同時に戸籍法も同日に新戸籍法が施行されました。

ここからは民法と戸籍法の条文を基に検証していきますが、その前に法律は種々の観点から様々に分類されていて実親子関係はその分類中「実体法と手続法」の区分に属します。

「実体法と手続法」は、デジタル大辞泉の解説によると次の通りです。

実体法は
権利・義務の発生・変更・消滅の要件などについて規定する法。民法・商法・刑法など。→手続法

手続法は
実体法の運用手続きについて規定する法。民事訴訟法・刑事訴訟法・戸籍法・不動産登記法など。→実体法

出典:実体法手続法

以上から実親子関係に関して調べる法律は、権利・義務の発生・変更・消滅の要件などについては民法、戸籍への運用手続きについては戸籍法ということになります。
従って実親子関係について論じる場合は、民法と戸籍法を一体にして解釈することが重要になってきます。

実体法と手続法を一体にして解釈していないために誤った解釈をしているのが「通説」であり、正しい法解釈との違いは次の通りです。

項目 相  違  点
通説 嫡出性推定の規定に該当する場合は、血縁関係の有無にかかわらず夫が子の父となる。
これは早期に子供の戸籍を確定して扶養義務を負う父親を法的に明確にすることが、子供の利益や権利保護につながるとの考え方に基づく。
正当な解釈 実親子関係は生物学的根拠に基づくのが原理原則であり、嫡出性推定の規定によって自動的に父子関係が確定するのではなく、あくまでも出生届出人の自由意思に基づく法律行為によって定まる。

先ずは実体法である旧民法から検証していきましょう。

第820条
  妻が婚姻中に懐胎したる子は夫の子と推定す
 2 婚姻成立の日より二百日後又は婚姻の解消若くは取消の日より三百日内に生れたる子は婚姻中に懐胎したるもの推定す

第822条
 第820条の場合に於て夫は子ノ嫡出なること否認することを得

第824条
  夫が子の出生後に於て其嫡出なることを承認したるときは其否認權を失う

第825条
  否認の訴は夫が子の出生を知りたる時より一年内に之を提起することを要す

第827条
  嫡出に非ざる子は其の父又は母に於て之を認知することを得
  2 父が認知したる子は之を庶子とす

第833条
  認知を為したる父又は母は其の認知を取消すことを得ず

「庶子」の名称は新民法で廃止していますが、その他については旧民法の条文を踏襲しています。
従って民法の解釈については、新旧において相違点は全くないことになります。

実親子関係に関する民法の規定は、権利・義務の発生・変更・消滅の要件などについて規定する法なので上記の規定だけで十分です。
なぜかというと、実親子関係は血族でなければならず、それは生物学上の根拠に基づくのが当然であり、それに反する届出が受理された場合に生物学上の根拠に基づく内容に変更できるか否かを民法は規定すれば良いからです。

民法で定めるべきことは、生物学上に基づく事実に反する届出をした場合にその変更を認めるか認めないかの要件を規定し、後はその趣旨に基づいて手続法である戸籍法で詳細を規定すれば良いのです。

このような原則を法律の専門家が知らないことが、今日、無戸籍者を生じさせて不当な犠牲を強いて苦しめているのが現状です。

比較のため新民法の条文を別掲します。

判決文現行民法

検証3:戸籍法の変遷

戸籍法は時代の変化に伴って変遷していますが、民法規定の趣旨に基づいて手続きのあり方を時代とともに合理的に改正しているだけで骨子は変わっていません。
このことを念頭において調べていくと理解するのも容易と思います。

「明治戸籍法」、「大正戸籍法」、「現行戸籍法」の順に変遷をみていくと通説の誤りが如実に浮かび上がります。

旧法では嫡出性の推定に該当する子については必ず嫡出子の出生届出をしなければならないと規定されていましたが、それは嫡出子否認の訴えは出生届出の前に提起しなければならないことから、判決確定までの期間中、子の無戸籍を防止するための一時的な措置として、規定はとりあえず嫡出子出生届出を義務づけました。

嫡出子否認の訴えの判決確定によって実親子関係が確定することになり、判決内容次第では戸籍の記載が変更になることもあります。
現行戸籍法は、そのような無駄な手順を省いた規定に改正されています。

検証4:明治戸籍法について

明治31年の戸籍法の抜粋は下記の通りです。

明治31年戸籍法

第68条、71条、72条には次のように規定されています。

第68条
 子の出生ありたるときは十日内に次の諸件を具して之を届出さることを要す。
 1.子の名及び男女の別
 2.子が私生子なるとき又は出生前に認知せられたる為め庶子と為りたる者なるときは其の旨
 3.出生の年月日時及び場所
 4.父母の氏名、続柄、本籍地但私生子の届出に付いては母の氏名、続柄、職業及び本籍地を記載することを要す。
 5.出生子の入るべき家の戸主の氏名、続柄、職業及び本籍地
 6.出生子が一家を創立する者なるときはその旨及び創立の原因
 7.国籍を有せざる子なるときはその旨

第71条
 嫡出子出生の届出は父より之を為し、父が届出を為すこと能わざる場合及び民法第734条第1項、第2項但書の場合に於いては母より之を為すことを要す。
 庶子出生の届出は,父より之を為し、私生子出生の届出は,母より之を為すことを要す。
 前2項に掲げたるものより届出を為すこと能わざる場合に於いては次に掲げたる者は,その順序に従い届出を為す義務を負う。
  第1 戸主
  第2 同居者
  第3 分娩に立ち会いたる医師又は産婆
  第4 分娩を介抱した者
同順位の届出義務者数人あるときは其の中の一人より届出を為すを以て足る。

第72条
 夫は妻の子の嫡出なることを否認せんとする場合と雖も前条第1項の規定に依り出生の届出を為すことを要す

上記規定から次のことがわかります。

第68条2項に「嫡出子」の記載がありませんので、嫡出子に該当する場合は必ず嫡出子出生の届け出をしなければなりませんでした。

また、庶子の場合は子が出生する前に男性が認知の届け出をしておかなければならないこと、これによって嫡出子であっても庶子であっても出生届出ができるのは父であって、母は嫡出否認や庶子否認をすることができませんでした。

第72条に「夫は妻の子の嫡出なることを否認せんとする場合と雖も前条第1項の規定に依り出生の届出を為すことを要す」と規定されています。

ここで民法の規定が重要になってきます。
夫は嫡出子出生届出と嫡出子否認の訴えの手続きの順序を間違えると大変なことになります。

先に出生届出をすると嫡出子であることを承認したことになります。
嫡出子否認の訴えを提起する考えがあるときは、出生届出は訴えの提起後でなければなりません。

検証5:大正戸籍法について

旧戸籍法(大正13年)

第69条
  出生の届出は,14日内にこれをしなければならない。
  2 届書には,次の事項を記載しなければならない。
   1.子の氏名及び男女の別
   2.子が私生子又は庶子であるときはその旨
   3.出生の年月日時及び場所
   4.父母の氏名,本籍及び職業
   5.子の入るべき家の戸主の氏名及び本籍
   6.子が一家を創立するときはその旨並びに創立の原因及び場所
   7.日本の国籍を有しない者の子であるときはその旨

第72条
  嫡出子出生の届出は,父がこれをし,父が届出をすることができない場合又は民法第734条第1項,第2項但書きの場合においては,母がこれをしなければならない。
  2 庶子出生の届出は,父がこれをし,私生子出生の届出は,母がこれをしなければならない
  3 前2項の規定により届出をすべき者が届出をすることができない場合においては,次に掲げる者は,その順序に従い届出をしなければならない。
   第1 戸主
   第2 同居者
   第3 分娩に立ち会った医師又は産婆
   第4 分娩を介抱した者

第73条
   嫡出子否認の訴えを提起したときであっても,出生の届出をしなければならない

上記の規定から次のことがわかります。

嫡出性の推定に該当する子の嫡出子出生届出が義務付けられているのは明治戸籍法と同じですが、明治戸籍法との相違点もあり、それは男性の認知の届出が子の出生後でも良くなったこと、嫡出否認の訴えを提起する場合は夫は出生届出人にならないことです。

夫が嫡出子否認の訴えを提起しながら嫡出子出生届出人にもなるというのは矛盾するため「夫は」が削除されたものと思います。

嫡出子否認の訴えが提起されたときは、裁判の確定次第では嫡出子出生届は無効になり、その後「庶子」あるいは「私生子」の順に従って子が入籍する戸籍が決定します。

以上の規定からわかることは通説になっている「嫡出性の推定に該当する子は法律によって実親子関係が決定されている」のではなく、嫡出子否認の訴えは出生届出の前に提起しなければならないため、判決が確定するまで嫡出子であるか否かは確定していないが、その期間中の子の無戸籍を防止する目的もあって規定は嫡出子出生届出を義務づけたのです。

子の実父母は生物学上に基づくのが原則であり、それは昔も今も不変の当然の原理であり、旧法当時においてもその概念がきちんと根底にあったことがわかります

「早期に父子関係を確定して子の身分関係の安定を図るのが嫡出性推定の制度趣旨」が通説になっていますが、そのような趣旨は全くなかったことがおわかりになったと思います。

検証6:旧法当時の認知の規定について

認知については新法で大改正されていますので、旧法を確認しておきましょう。

旧民法には次のように規定されていました。

第733条
  子は父の家に入る
  2 父の知れざる子は母の家に入る
  3 父母共に知れざる子は一家を創立す

第735条
  家族の庶子及び私生子は戸主の同意あるに非ざれば其家に入ることを得ず
  庶子が父の家に入ることを得ざるときは母の家に入る
  私生子が母の家に入ることを得ざるときは一家を創立す

第827条
  嫡出に非ざる子は其父又は母に於て之を認知することを得
  2 父が認知したる子は之を庶子とす

第831条
  父は胎内に在る子と雖も之を認知することを得此場合に於ては母の承諾を要す
  2 父又は母は死亡したる子と雖も其直系卑属あるときに限り之を認知することを得此場合に於て其直系卑属が成年者なるときは其承諾を得ることを要す

第833条
  認知を為したる父又は母は其認知を取消すことを得ず

第835条
  子、其直系卑属又は此等の者の法定代理人は認知の訴を提起することを得但父又は母の死亡の日より三年を経過したるときは此限に在らず

旧戸籍法には次のように規定されていました。

第81条
 私生子認知の届書には,次の事項を記載しなければならない。
 1.子の氏名,男女の別,出生の年月日及び本籍
 2.死亡した子を認知する場合においては死亡の年月日
 3.父が認知をする場合においては母の氏名及び本籍並びに父の職業
 4.子が家族であるときは戸主の氏名,本籍及び戸主と子との続柄

第83条
 父が庶子出生の届出をしたときは,その届出は,認知届出の効力を有する。
 民法第836条第2項の規定により嫡出子であるべき者について父母が嫡出子出生の届出をしたときもまた同様とする。

以上の規定から次のことがわかります。

父が認知するときは「子の母の氏名」の記載が絶対ですが、母が私生子出生届出をする場合は「子の父の氏名」は任意ということになります。

母がする私生子出生届書に「子の父の氏名」を記載したときは、母は子を認知したことになり、父の氏名を記載しなかったときは、認知しなかったことになると同時に永久に認知の訴えを提起することができないことになります。
出生届書に父の氏名が記載されていないときは、訴える相手を特定できないからです。

旧法では母は父より先に出生届出をする権利がなかったので、確かに旧法では母に嫡出否認の権利はありませんでした。

検証7:新戸籍法の出生届に関する規定について

旧法の規定のポイントは理解できましたか。
旧法と新法の規定の文言の相違点を正確に理解することが重要です。
ここからは新法の規定について検証していきます。

新戸籍法

出生届出書の記載事項は下記の通りです。

第49条
 出生の届出は、14日以内(国外で出生があった場合は、3箇月以内)にこれをしなければならない。
 2 届書には、次の事項を記載しなければならない。
  1.子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別
  2.出生の年月日時分及び場所
  3.父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人であるときは、その氏名及び国籍
  4.その他法務省令で定める事項
 3 記載省略。

第52条
 嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。
   2 嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。

   3 前二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。
   第一 同居者
   第二 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者
  4 第一項又は第二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、その者以外の法定代理人も、届出をすることができる

第53条 嫡出子否認の訴を提起したときであつても、出生の届出をしなければならない。

新法規定の改正の最大ポイントは、始めから嫡出子又は嫡出でない子の別を明らかにして生物学上に基づく親子関係の出生届出ができるようになったことです。
この結果、旧法当時の「嫡出性の推定」に該当する子の嫡出子出生届出をする必要がなくなり、届出人の自由意思で生物学上の子の父母の氏名を出生届書に記載することができるようになりました。

また、嫡出子については旧法当時の原則父に限定されていた出生届出人の条件が削除され、届出人は「父又は母」のいずれからも出来るようになりました。
この結果、母は出生届書の記載をもって嫡出子否認ができるようになりました。

ところで第53条に旧法の規定丸写しの「嫡出子否認の訴を提起したときであつても、出生の届出をしなければならない。」が新法にも規定されていますが、立法府が立法に当たり改正になる規定の本質的な趣旨を理解していなかった証拠です。

第53条は無意味で不要な規定です。その理由はここまで読んでこられた皆さんはすぐにおわかりになったと思います。

旧法は嫡出子出生届出の前に嫡出子否認の訴えをしなければならなかったため、訴えが確定するまでの間、子を無戸籍にしないための措置として嫡出子出生届出を義務付けていました。

新法では妻が嫡出子出生届出をした場合に限って、夫は嫡出子否認の訴えができます。
すなわち嫡出子否認の訴えは嫡出子出生届出が受理された後になり、子が無戸籍になることがないからです。

ここで新民法の関連する条文を確認しましょう。

第772条(嫡出の推定)
 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
 2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

第774条(嫡出の否認)
 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

第776条(嫡出の承認)
 夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。

以上から要点をまとめると次のようになります。

  1. 夫が嫡出子出生届出をしたときは嫡出子であることを承認したことになり、後に生物学上の関係にないことがわかっても嫡出子否認の訴えは提起できません。
  2. 母が嫡出子出生届出をした場合に限って、夫は嫡出子否認の訴え提起ができます。
  3. 妻は夫の子かそれとも別の男性の子か余程のことがない限り子の父が誰であるかわかっていると思いますので、生物学上の父を届け出るかそれとも真実に反して夫の子として届け出るか妻の自由意思です。
  4. 嫡出子否認の訴えが認められたとき、子の認知の訴えはできなくなるし男性も任意認知ができなくなり、子の父の欄は永久に空白になります。
    なぜかというと、母が届け出た出生届書の父の氏名は変更が認められないからです。
  5. 母が夫以外の男性の子として出生届出をしたときは、認知の訴えや父は任意認知ができます。
    離婚成立以前でも嫡出でない子としての届出はできますが、夫婦の戸籍に記載されることにためらいがある場合は、離婚するまでの間は無戸籍にならざるを得ません。

検証8:「認知」について新法の規定をみてみましょう

旧法では嫡出でない子について、「庶子、私生子、一家創立」という用語が使われていました。
新法はそれに代わる用語として「嫡出でない子」という用語に変わりました。
新民法の規定は次の通りです。

第779条(認知)
   嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

第783条(胎児又は死亡した子の認知)
   父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
   2 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。

第784条(認知の効力)
   認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。

第785条(認知の取消しの禁止)
   認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。

新戸籍法の規定は次の通りです。

戸籍法第60条 任意認知
 認知をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
  一 父が認知をする場合には、母の氏名及び本籍
  二 死亡した子を認知する場合には、死亡の年月日並びにその直系卑属の氏名、出生の年月日及び本籍

戸籍法第61条 胎児認知
 胎内に在る子を認知する場合には、届書にその旨、母の氏名及び本籍を記載し、母の本籍地でこれを届け出なければならない。

第62条 準正子の嫡出子出生届による認知の効力
 民法第789条第2項の規定によつて嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたときは、その届出は、認知の届出の効力を有する。

父が認知する場合は、「母の氏名」の記載が絶対です。
戸籍法第60条に母が認知する場合についての規定がありません。それはなぜでしょう
母の場合は出生届書の父の欄に父の氏名を記載することをもって認知届出になるからです。

ここまで読んでこられた皆さんは、新旧の民法及び戸籍法に共通していることは、「実親子関係は法律で決定されていない」、新法では男女平等になったことにより嫡出性の推定に該当する子の場合は、「父または母の自由意思に基づく届出」で実親子関係が決定するということ、すなわち母にも出生届出で嫡出子否認や認知ができる規定に改正されていることがおわかりになったと思います。

検証9:大阪高裁判決の検証その1ー調停の経過事実はすべて法令違反

判決文平成30年大阪高裁判決文全文

調停経過事実平成30年大阪高裁判決文中の調停経過事実(抜粋)

控訴人は調停によって戸籍を取得しましたが、調停の経過事実はことごとく戸籍法に違反しています。
調停では法令違反が認められているのですか。

  1. 夫との協議離婚後、生物学上の父が子の出生届出をして不受理になっていますが、これは当然であって、母が嫡出でない子として、父の欄に生物学上の男性の氏名を記載した出生届出をすべきでした。
  2. 夫の死亡を知った後、子は生物学上の父に対する認知調停を申し立て,認知を認める審判が確定したとありますが、子が父に認知の訴えができるのは、母が出生届出で認知した後でなければならないのに、なぜこのような審判が確定することになったのでしょうか。
  3. 認知の審判確定後に子は母の氏に変更する許可を申し立て,申立てを認める審判がされたとありますが、子がどこにも入籍していないのに子の氏が決まるのはなぜでしょうか
  4. 父が上記各審判書を添付して子の出生届を提出し、母の戸籍に入籍したとありますが、父は出生届出人になる資格がないのにその出生届出書が受理されたのはなぜでしょうか。
  5. 調停の場合、法律の規定は一切排除されるのですか。
  6. このような複雑な手続きをしてやっとの事で子の無戸籍を解消することができた母の「嫡出否認の権利を男性にだけ認めた民法の規定が違憲であるとして提訴した」気持ちを、私は調停の経過を読んで初めて理解することができましたが、その内容を知らないときは全く理解できませんでした。
    法律の規定を正確に解釈できない弁護士や調停委員の責任は重いと思います。

ジャンプ前に戻る

検証10:大阪高裁判決の検証その2-当事者(原告)である控訴人の主張について

控訴人の主張平成30年大阪高裁判決文より控訴人の主張(抜粋)

規定は憲法に違反していません

控訴人は、「無戸籍児が生まれる原因となっている「本件各規定」は,憲法14条1項,24条2項に違反している。」と主張しています。

一審判決文によると「本件各規定」一審判決文の抜粋及び関連条文は、民法774条(嫡出の否認)、775条(嫡出否認の訴え)、776条(嫡出の承認)を指していますが、この条文だけを根拠にしで提訴していることに呆れました。

旧法当時から新法の今日まで無戸籍児が生じる原因となる規定は論理上存在しないのに、今日、無戸籍児が存在するのは、本裁判の訴訟代理人の主張でもわかるように法律専門家の法知識欠如に起因しています。

実親子関係を成立させるためには、民法の他に戸籍法第49条及び52条が必須になります。

民法及び戸籍法の規定をわかりやすくまとめると次の通りです。

  1. 「嫡出子でない子」の場合、父は出生届出人になれません。出生届出人になれるのは母だけです。
  2. 父が出生届出人になれるのは「嫡出性の推定に該当する子」の場合だけで、父が届け出ると嫡出子であることを承認したことになり、嫡出否認の訴えはできなくなります。
  3. 母は、「嫡出子」、「嫡出でない子」のいずれの場合も出生届出人になれます。
  4. 母は出生届書に「嫡出でない子」と記載することで自動的に嫡出子否認の効果が生じます。
  5. 「嫡出でない子」にもかかわらず母が「嫡出子」の届出をした時、父は嫡出子否認の訴えができます。

控訴人が主張する憲法の規定は次の通りです。

憲法第14条第1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第24条2項
  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。

憲法第14条第1項については、母は出生届出をもって嫡出子否認ができる規定になっていますので性別による差別はないことになります。

憲法第24条2項については、出生届出人の自由意思に基づく届出ができる規定になっていますので、実親子関係に関する法律は、家族に関するその他の事項に関して個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されていることになります。

検証11:大阪高裁判決の検証その3-当事者(被告=国)である被控訴人の主張について

被控訴人の主張平成30年大阪高裁判決文より被控訴人の主張(抜粋)

被控訴人は、「現行の制度が夫にのみ嫡出否認権を認めているのは、子の身分関係の法的 安定を図るため,嫡出否認権の行使要件を限定した結果にすぎず、夫に「特権」を付与したものではない。」と述べていますが、法規上そのような趣旨は全く含まれていません。

当事者である国の主張については、一審判決文に詳しく記載されていますので後で詳しく検証しましょう。

検証12:大阪高裁判決の検証その4-大阪高裁裁判官の判断について

裁判官の判断平成30年大阪高裁判決文中の裁判官の判断部分全文(抜粋)

大阪高裁裁判官の判断も通説と何ら変わりはありませんが、判決理由については裁判官としての法律の資質を疑いたくなるような内容に唖然とします。

裁判官は次のような理由を挙げています。

夫には、嫡出否認によって父子関係から生じる扶養義務を免れ、子を自らの相続人の地位から排除するとの直接的な利益がある。
これに対し、妻は、父子関係の当事者ではなく、嫡出推定により直接の法的権利義務関係が生じるものではない。
妻には、生物学上の父との間で子について共同親権者となる利益があるとしても、これは、自らが子の親権者となって夫と離婚し、さらに、生物学上の父と婚姻し、子に養子縁組をさせるという形でも達成することはできる。嫡出否認が認められた場合と差異があるとはいえ、夫の場合には、扶養義務を免れ、子を自らの相続人の地位から排除するのと同様の効果を発生させる措置はない。

子は父子関係の一方の当事者であり、生物学上の父との間に法律上の父子関係を築くことに係る利益として、よりよい扶養環境を得ることや生物学上の父の相続人の地位を取得することがあるとともに、生育過程における精神的な安定も考えられる。

もっとも、子は、出生直後及び主に未成熟子の期間は、専ら養育の対象であるから、子に嫡出否認によって直接の法的義務を免れる利益は通常は考えられない。そして、少なくとも、よりよい扶養環境を得ることや生物学上の父の相続人の地位を取得すること自体は、ウでもみた養子縁組という方法によっても達成は可能である。

さらに、子は、出生後間もない時期においては嫡出否認権を行使で認めるという区別に一応の合理性があるということができる。

夫が子の父となった場合、子は父につながる者との親族関係が永久のものとなるので、父が子に対して扶養義務や相続を免れるという一方の側からの利益のみで判断するのは不適切で、将来までを見据え逆に子が父あるいはそれに連なる親族への扶養義務や子の遺産を子の意思ではどうすることもできない法律の規定によって父の血族に相続されることもあり、子や母は不利益を被ります。

子の実父を戸籍に誰と記載するかは「血族」という自然科学の論理の問題もあってとても重要なことです。
生物学上の男性が子の実父になるか養父になるかは裁判官が理由で述べているような安易な判断で済む問題ではなく、養親子関係になった場合には民法第734条の近親婚の制限を受けないことになり近親婚が生じる可能性がないとも限りません。

このようなことを考えると妻も父子関係についてれっきとした当事者であるのは自明の理で、戸籍の実父欄に生物学上の男性が記載されるように妻からも嫡出子否認が当然に認められなければなりません。
戸籍法はそれができるように規定しています。

裁判官は、「子は、出生後間もない時期においては嫡出否認権を行使で認めるという区別に一応の合理性があるということができる」と述べています。
これについては一審で原告が主張していますが、なぜこのようなことを考えるのか理解に苦しみます。

子は実親が誰であるかを知る由もなく戸籍に記載された実親を無条件で受け入れるしかありませんが、子が実親子関係について当事者となって訴えるには何らかの証拠によってそれを明らかにする必要があります。
その証拠になるものが母の出生届書であり、そこに記載された父に対して認知の訴えができる場合のみです。

したがって子からの嫡出否認権行使は、戸籍に記載されている男性を実父でないと訴えるための証拠を示すことができないので、裁判官が示した子からの嫡出否認権行使の合理性はあり得ません。

検証13:被告である法務省の主張の問題点(一審判決文から)

一審判決文一審判決文全文

一審被告の主張一審被告(国)の主張(抜粋)

(注)国を当事者とする訴訟については,法務大臣が国を代表することになっていますので、被告の主張は法務省の見解ということになります。

裁判上の法務省の主張は、嫡出性の推定を受ける子の出生届出について行政の対応を示していることになりますので、無戸籍児が生じた原因の責任を問う時の重要な証明資料になります。

国は(ア)bで次のように主張しています。

現行の嫡出推定制度は,夫婦間の子が嫡出子となることは婚姻による重要な効果であることから,出産の時期を起点とする明確で画一的な基準に基づいて父性を法律上推定し,父子関係を早期に定めることによって子の身分関係の法的安定を図る仕組みとして設けられている。
同制度は,父子関係を早期に定めることを重視しているため,法律上推定される父性が血縁上の父子関係と合致しない事態が生じることは制度上予定されている。

法務省は通説を主張しています。法務省でありながら法律の正しい解釈が出来ずに誤った行政を行ってきた事実を自ら証明したことになります。

国は(ア)eで次のように主張しています。

なお,形式的には嫡出推定が及ぶように見える事案であっても,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,当該子は実質的には嫡出推定を受けず,親子関係不存在確認訴訟を提起して,父子関係を争うことができる(最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決・集民197号375頁)。

また,夫婦の実態が失われ,単に離婚の届出が遅れていたにとどまる場合など,実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子であれば,夫からの嫡出否認を待つまでもなく,実父に対し認知の請求ができる(最高裁昭和44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁)。

本件においても,これらの事情が存在する場合には,原告らは親子関係不存在確認訴訟により父子関係を争うか,又は嫡出否認を待たずに実父に対し認知の請求をすることができたと考えられる。原告A,原告B及び原告Cの無戸籍の原因が民法774条にあるとは言えない。

法務省は、判例を示して親子関係不存在確認訴訟あるいは嫡出否認を待たずに実父に対し認知の請求をすることで父子関係を決めることができると述べていますが、列挙した判例はいずれも裁判官の判断が誤っており、判例が法律の規定に則った妥当な判決であったかどうかの内容確認もしないまま判決文中の一部の記述を引用するという安易な主張に呆れます。

親子関係不存在確認訴訟については、親子関係不存在確認訴訟で私は意見を述べましたが、実体法である民法にも手続法である人事訴訟法にも何一つ規定されていないのに、法務省が親子関係不存在確認訴訟の提起が可能であったとの主張は問題です。

昭和44年の判決の問題点については、当ページの最初に記載しました。
最高裁平成12年の判決については、以下で検証することにします。

検証14:平成12年最高裁判決について

判決文平成12年最高裁決文全文

平成8(オ)親子関係不存在確認請求事件 最高裁平成12年3月14日第三小法廷、判決、破棄、自判、東京高等裁判所の裁判は、当事者の一方である被上告人は戸籍上の実父、他方の上告人は戸籍上の嫡出子で、事実関係は次の通りです。
なお、最高裁の裁判長裁判官は千種秀夫、裁判官は元原利文、金谷利廣、奥田昌道です。

平成年月日 認 定 事 実
3年2月2日 被上告人とDが婚姻届出
3年9月2月 Dは上告人を出産
同月11日 被上告人が嫡出子出生を届出
6年6月20日 上告人の親権者をDと定めて協議離婚
7年1月22日 被上告人は、Dから被上告人と上告人との間に自然的血縁関係がないのではないかとの電話を受けた
7年2月16日 被上告人は親子関係不存在の確認を求める訴えを提起

第一審は、本件訴えを却下したが、東京高等裁判所は、本件訴えの適法性につき次のとおり判断し、第一審判決を取り消して事件を第一審に差し戻す旨の判決をしました。

  1. 民法上嫡出の推定を受ける子に対し、父がその嫡出性を否定するためには、同法の規定にのっとり嫡出否認の訴えによることを原則とするが、嫡出推定及び嫡出否認の制度の基盤である家族共同体の実体が既に失われ、身分関係の安定も有名無実となった場合には、同法七七七条所定の期間が経過した後においても、父は、父子間の自然的血縁関係の存在に疑問を抱くべき事実を知った後相当の期間内であれば、例外的に親子関係不存在確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。
  2. 本件においては、被上告人とDとの婚姻関係は消滅しているのであるから、被上告人と上告人をめぐる家族共同体の実体が失われていることは明らかである。
    また、被上告人が上告人との間に自然的血縁関係がないのではないかとの疑いを高めたのは、平成7年1月22日にDからその旨の電話を受けた時であり、被上告人は、その後速やかに本件訴えを提起している。
  3. したがって、本件においては、被上告人は、上告人に対し、親子関係不存在確認の訴えを提起し得るものと解すべきであり、本件訴えは適法といえる。

皆さんは東京高等裁判所の判決理由を読んでどのように感じましたか。
裁判官でありながら法律を無視していると感じたのではないでしょうか。

この事件は民法第776条の「夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。」を理由に判決すべき事件なのに、裁判官は第776条に全く触れずに私見で判決しました。

最高裁は東京高裁の判断は是認できず、第一審判決は正当であって、被上告人の控訴は棄却すべきものとしましたが、その判決理由は下記の通りで法律の規定を無視し判例の引用に頼った判決でした。

最高裁裁判官も民法第776条の「夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。」が、どのような行為をした時に適用する規定なのか理解できていなかったようですね。

判決文中にある昭和55年判決は、昭和55年判決で、私は意見を述べました。

判決文中には「民法772条の推定を受けない嫡出子に当たる」との記載がありますが、この記載から最高裁裁判官は戸籍法第49条の条文を読んでいないことがわかります。
もし読んでいれば法律用語になっている「民法772条の推定を受けない嫡出でない子」と記載したでしょう。

 

民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出であることを否認するためには、専ら嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、右訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から十分な合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁参照)。
そして、【要旨】夫と妻との婚姻関係が終了してその家庭が崩壊しているとの事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、右の事情が存在することの一事をもって、嫡出否認の訴えを提起し得る期間の経過後に、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

もっとも、民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻が右子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、右子は実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定にかかわらず、夫は右子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁、最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁参照)。

しかしながら、本件においては、右のような事情は認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。
そうすると、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴えは却下すべきものであるから、右と結論を同じくする第一審判決は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。

最高裁の判決文を読むと、裁判官の判断基準は法律の規定の条文を調べるのではなくて、過去の判例を重視しそれを参考にして判決していることがわかります。

最高裁裁判官を始めとする裁判官は、憲法第76条第3項に「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」という条規を知らないようで、法律の規定を全く読まずに私見や判例を理由にして判決する事態は司法の信頼を失い憂うべきことで、このような裁判官の悪しき体質は、日本が法治国家でないことを証明しているようなものです。

検証15:規定の見直しは不要です

2018年8月31日付日本経済新聞記事(民法規定見直しで研究会)

新聞記事によると、法務省は嫡出否認の訴えの権利を「女性や子にも広げることを検討する」とあり、公明党は「夫が子の出生を知ったときから1年以内としている訴訟規定の期間延長を求める」とありました。

前者については検証で述べてきた通りの理由によりその必要はありません。

後者については子の出生を知ってから数年経過後に嫡出子でないことを知ったからといって夫から嫡出否認の訴えが認められると、民法第776条の嫡出子承認による否認権を失う規定とのバランスが取れないばかりか出生届出による子の地位の安定が保てないことになりますので期間は1年で十分であり、期間延長の必要はありません。

検証16:法務省の責任

「嫡出否認の権利を男性にだけ認めた民法の規定が違憲として提訴された裁判」において、被告である法務省の主張は、無戸籍児が生じた原因が偏に法務省の法解釈の誤りにあることを自ら証明したことになります。

昭和44年判例は、嫡出性の推定に該当する子であっても母から嫡出でない子としての届出が受理されていますので、新法制定後ある時期までは正しい法解釈がされていたことを証明しています。

「親子関係不存在確認訴訟」は、実体法の民法に規定がなく、手続法である人事訴訟法第3章実親子関係訴訟の特例にも規定されていないにもかかわらず「親子関係不存在確認訴訟」提起を勧める法務省はあまりにも無責任すぎます。

法務省ホームページの無戸籍の方が自らを戸籍に記載するための手続きについてを読むと、「A2-1」に「無戸籍の方が元夫を父としない戸籍の記載を求める場合には,裁判手続において嫡出推定の及ばない事情が証明されれば,嫡出否認の手続によることなく元夫との父子関係を争うことが可能とされており、その結果、元夫との間に父子関係がないことが明らかになれば、母の氏を称し、その戸籍に記載されることになります。」とあります。

また、「A4-1」では、「戸籍事務の担当者に、嫡出推定が及ばないということがはっきり分かれば、嫡出否認の手続によることなく、戸籍上元夫の子とはしないという取扱いが可能です。そのような例としては、まず、離婚後300日以内に出生した子であっても、医師の作成した証明書により、婚姻中に懐胎した子ではないこと(=離婚後に懐胎したこと)を直接証明することができる場合があります」との記載もあり、それについては法務省民事局が婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いについての通達を出しています。

法務省の上記の回答は、戸籍法第49条及び52条の規定が全く念頭にないことを示しています。
嫡出性推定の規定の法律用語「推定」の意味を法務省はどのように理解しているのでしょうか。
「推定」の意味については、当サイトの法令解釈の基礎知識の第一歩は、法令用語の正確な理解ですで説明しました。

本来、戸籍は届出事件の本人が届人になるのが原則で、出生届は父及び母になります。
この原則に従い認知は父も母も届出人になりますが、嫡出子出生届出の場合に戸籍法第52条が父又は母のどちらか一方からの届出で他方の実親も確定させるのは、民法第772条の嫡出性の推定により戸籍の婚姻の記載を証明資料にしてその効力を生じさせているのです。

一方、戸籍法第62条は「民法第789条第2項の規定によって嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたときは、その届出は、認知の届出の効力を有する。」と規定しているように、嫡出性の推定規定に該当しない子の嫡出子出生届出は、「父母」がともに嫡出子出生届出人になりますと規定しています。

当サイトでは判例の誤りをいくつも指摘してきましたが、判決から憲法第76条第3項の「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」という条規があることを裁判官が認識しているとは思えないものもあり、このようなことを考えると裁判など提起しないで済むように法律の規定の正しい解釈を広報していくのが法務省の務めでもあります。

実親子関係についても法律の規定の解釈を正確に広報していれば、父も母も何か心当たりがあったときには出生届出書を提出する前に真実を相手に打ち明けるかも知れません。

父又は母に故意あるいは過失による出生届が受理された後では嫡出否認の訴えしか認めらず、しかも提起期間が1年なので出生届出後の実親子関係の変更は厳しいと思います。

無戸籍者が存在している現状は、法務省の法律を正確に解釈できなかったことに起因しているのであり、その責任は重大です。

出典:法務省ホームページ

出典:法務省民事局通達

「嫡出性推定」規定の通説により無戸籍になった子の母は、子の戸籍取得のために行動を起こしましょう

母は無戸籍の子の出生を届け出ましょう。
ここで注意すべきことは出生届書の父の欄に生物学上の父の氏名を記載しましょう。父の欄を空白にした場合は父からの「任意認知」や子からの「認知の訴え」ができなくなりますので注意しましょう。

出生届出が受理されなかった場合は、戸籍法第48の規定により「不受理の証明書」を請求しましょう。
次に戸籍法第121条「戸籍事件(第124条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。」の規定に基づく手続きをすることになりますが、「調停前置主義」により裁判の前に調停手続きになります。

調停手続きでは上記で示した法律に反する調停手続きにならないようにしましょう。

この先の手続きについては、法律の専門家にご相談して下さい。

さて、子の出生届出ができなかったのは子を無戸籍にした母に落ち度があったのではなく、行政側の法解釈の過ちによる重過失が原因なので国家賠償法により国に損害賠償を請求することになると思いますが、法務省の公務員に重大な過失があつた場合に該当するので、同法第1条第2項「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」の規定に従い法務省が誤った法解釈を行使し始めた以降の法務大臣以下戸籍担当責任者の連帯責任として該当する公務員に対して求償権を国が行使することも求めていただきたいと思います。

なお、国家賠償法1条2項における「重過失」については、羽田真氏の論文が参考になりますので別掲します。
国家賠償法1条2項における「重過失」について国家賠償法1条2項における「重過失」について

ところで「嫡出否認の権利を男性にだけ認めた民法の規定が違憲として提訴された裁判」は、控訴人訴訟代理人のブログによると平成30年9月8日付で最高裁判所へ上告を行ったとのこと、平成31年2月現在最高裁の判決は未だ出ていません。

追記:井戸まさえさんの記事について

当サイトの本ページは2019年2月に公開しましたが、その後偶然に文藝春秋2019年2月号に掲載されたジャーナリスト井戸まさえさんの「1万人の無戸籍日本人がいる」を読みました。
その記事を通して感じたことを追記します。

井戸さんは再婚した男性の子を出産し出生届出をしましたが、市役所で父の欄が「現夫」になっているので嫡出性推定規定に反しているという理由で受理されず子は無戸籍になってしまいました。文中に次の記載があります。

市役所側は「子どもの身分の安定のために、職権で前夫を父とする戸籍を作る」と言い出した。それだけは避けたい、と思った私たち夫婦は、あらゆる手を模索した。

その後の経緯は、法律的にも複雑なので詳細を記さないが、陳情に赴いた国会議員の紹介で、運よく法務省民事局長の助言を得て、形式的なこととはいえ私と子どもが「原告」になり、現夫を「被告」として、「認知」を求める裁判を起こすことになる。その結果、「子どもは、現夫の子として認める」との判決が出て、我が子は戸籍を得ることができた。

法務省民事局長の助言内容は法律違反。法に基づくと次の通りでなければなりません。

法律的に複雑な手続きを行ったとの記載からすると大阪高裁の控訴人と同じように法律に規定されていない出生届前に「認知の訴え」提訴に始まっていくつかの手続きを経た後に子を入籍することができたのではないかと思いますが、井戸さんの場合は民法第789条、戸籍法第62条により父母がともに出生届出人になって出生届出をすれば良いことになります。
父母がともに出生届出人になるのは、出生届書に記載する子の父母が民法第772条の嫡出性推定の規定に該当しないからです。

民法第789条(準正)
 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
 2 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
 3 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。

戸籍法第52条(届出義務者)
 嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。
 2 嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。
 3項及び4項記載省略

戸籍法第62条(準正子の嫡出子出生届による認知の効力)
 民法第789条第2項の規定によつて嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたときは、その届出は、認知の届出の効力を有する。

井戸さんは300日期間について次のように述べています。

後で知ったことだが、この民法の「300日規定」は、ずいぶん前から問題とされてきた。そもそも女性の妊娠期間は、300日よりⅠケ月も少ないからだ。
一般に、1週間7日をひと月4週で数えて10ケ月(280日)が妊娠期間の基準とされる。起点が最終月経日なのでさらに排卵が予想されるまでの2週間を引いて、実質的な妊娠期間は266日前後。
しかもあくまでこれは子どもが予定日に生まれるケースだ。3週間ほど早産だった私の場合、妊娠から出産までの期間はさらに短い。
離婚後、今の夫と再婚した後にできた子も、この民法の規定を適用したら「前夫との間の子」ということになる。

300日期間は妥当な期間です。

嫡出でない子の場合、胎児認知が認められています。なぜだと思いますか。
子が誕生する前に父が死亡したり意思表示が出来なくなっていることがあるかもしれません。その場合子の誕生後に父からの任意認知は不可能になり認知の訴えによるしかありません。
そのような事態を避ける方法として嫡出でない子については胎児認知を規定しているのです。

嫡出性推定に該当する子の場合は、届出人が父又は母のいずれかで良いので父または母に万が一のことがあっても支障なく実親欄に父母の名を届け出ることができます。
出産が予定日より遅れた場合でも嫡出性の推定に該当するように、最大限の300日を規定しているのはそのためです。
ここまで読んでこられた皆さんは、300日と規定されていても嫡出子、嫡出でない子の出生届出に何ら支障ないことは理解できると思います。

大阪高裁控訴人の女性の提訴は、法律を無視する法務省を浮かび上がらせました

法務省の下記資料からもわかるように、法務省が民法第772条の嫡出性の推定規定を正しく解釈できていないことを合わせ考えると、無戸籍解消者の全員は、手続きが上記調停の経過事実や民事局長の助言内容と同様の方法で無戸籍解消を行っているものと思われます。
そうであるなら法務省は法を犯していることになります。

女性が「嫡出否認の権利を男性にだけ認めた民法の規定が違憲であるとして提訴した」ことは、図らずも法務省の法律違反を白日の下に晒す効果をもたらしたことになり、価値ある提訴と思います。

法務省資料

出典:法務省資料